血液型検査のサポートBlog

血液型検査(輸血検査)で生じる悩みや疑問(はてな?)をサポートする医療従事者向けのBlogです。

#071:10mM DTTによる血清中のIgM、IgG抗体の鑑別の(はてな?)

 赤血球に対する不規則抗体の中には、主にIgM性とIgG性の抗体が存在し、IgM抗体は主に直接凝集反応を示す生理食塩液法(Sal法)で検出される抗体です。一方、IgG抗体は通常直接凝集反応を起こさず、間接抗グロブリン試験(IAT)で検出される抗体です[SL.1、SL.2]。しかし、最近では反応増強剤を用いるIATを実施するため、本質的にはIgM性の抗体であっても持ち越し現象を呈しIATで弱陽性となる場合もあります。また、IgM抗体価が高い場合もIATで弱陽性になる場合があるため、時々IgMとIgGの鑑別が必要になる場合があります。ここでは、10mM DTTによる血清中のIgM、IgG抗体の鑑別の(はてな?)についてシェアしたいと思います。

 DTT(dithiothreitol)は還元剤試薬であり、一般的な使用用途として200mM濃度で赤血球を処理することによって、分子内にS-S結合を持つ特定の血液型抗原の破壊(主に高頻度抗原に対する抗体の鑑別のため)やDARA(ダラツムマブ)投与患者の抗体検査のためにCD38抗原を破壊し、DARAの影響(干渉)を無くす目的で使用されます。一方、10mM濃度で血漿(血清)を処理するとIgM性抗体が失活するため、IgMとIgG抗体の鑑別が可能です。

 輸血検査においてIgMとIgGの鑑別が必須という場面はある程度限定されてきます。例えば、Sal法や酵素法でしか出ない抗Eが検出された際、おそらくIgM性の抗Eであることが想像できても、E-型の血液が選択されると思います。そう考えると、輸血を前提とし臨床的意義のある抗体が検出された場合は、IgM又はIgGの鑑別は必須ではないということになります。教科書的には、臨床的意義のある抗体は間接抗グロブリン試験で検出されるIgG性の抗体であり、IgM性の抗体は自然抗体の可能性もあり、多くの抗体では意義がないと記載してあっても、通常陰性血を選択する主な血液型抗原に対する抗体に遭遇すれば、例え自然抗体やIgM性の可能性が高いと分かっていても心情的に陰性血を選択するでしょう。そう考えると鑑別が必要なケースというのは、一部の不規則抗体を除けば、妊婦の抗体保有例に限定されてきます。妊婦の場合は常に児への影響を考慮しなければならず、IgG性の抗体は胎盤を移行して児赤血球を破壊(溶血)するリスクがあるためです。従って、IgMとIgGの鑑別が必要な状況をしっかり押さえることがまずは重要です。

 応用例としては日常検査で検出した不規則抗体において、例えばSal法で4+、LISS-IATで1+、PEG-IATで2~3+、60分-IATでw+~陰性の抗体に遭遇した場合に、この抗体・・本質はIgM?それともIgG性抗体も少し混在している?を解釈するためにDTT処理後の反応を観察することは無意味なことではありません。検査方法の違いによる抗体の反応性や反応増強剤の影響を把握する意味では重要なことです。上記パターンは、抗M、抗P1、抗Leb、抗I、抗HIなどで見られるパターンです。抗M以外は臨床的意義がない抗体と分かっていても、やはりIgM性の抗体であることは確認しておきたい、また、抗Mについて陰性血はどうしたら良いか?と悩む例だと思います。結論から言うと、この例では抗M以外は問題視する必要はありません。抗Mについては心配であればM-型を選択するのが良いと思います。抗MはIgM性の抗体であっても時々有害事象の報告があります。おそらく、M抗原が存在するGPAは赤血球上の抗原量が多いため少し強い抗体ではIgM性の抗体であっても悪影響が出るのかもしれません。

 10mM DTTによる血清中のIgM、IgG抗体の鑑別例を[SL.3]に示します。抗Mの例は、Sal法で4+に反応する抗体であるため、LISS-IATでも陽性となり、一見IgG抗体も存在しているように見えた例です。DTT処理した血清を用いたIATでは陰性であること、Salで4+、IATで1+という反応態度から、多くはIgM性の抗体であるという解釈で問題ありません。但し、DTT処理する際にはDTT溶液と血清を1:1で混合するため、弱い抗体は見逃す可能性がありIgGを完全否定することは出来ませんが、血清学(試験管法による凝集法)ではこれが限界です。先に「心配であればM-型を選択するのが良い」と記載したのは、こういうことを含んでいます。もう少し詳細にIgGの存在を調べるのであれば[SL.4]に示すように二次抗体に抗IgG、抗IgM、抗IgAなどを用いてそれぞれFCMで解析する方法もあります。但し、通常実施している血清学でIgG性の抗体とはっきり断定できない抗体であれば、例えIgG抗体が存在していても、それによって急激に何かが起こるということはありません

 抗体価がSal(室温15分)で32倍程度までのIgM性の抗体であれば10mM DTTで完全に破壊することが可能ですが、IgM抗体の抗体価が64~128倍以上(例えば、抗A、抗Bや寒冷凝集素病患者の抗Iなど)の場合は、10mM DTTでは完全にIgM性の抗体を破壊出来ず、その後のIATに持ち越しする可能性があることを知っておくべきです。高力価のIgM抗体が存在する際の処理については別の記事でシェアします。

 

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