血液型検査のサポートBlog

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#065:A2型及びA3型は主にエキソン7内の一塩基置換で生じるの(はてな?)

 ABO血液型には抗原量が少ない亜型が存在しますが、遺伝子レベルでは血清学よりもさらに多型性に富み、一つの表現型から複数の対立遺伝子が同定されています。A2(A2B)及びA3(A3B)についても血清学的には同様の表現型であっても複数の対立遺伝子が同定されています。ここでは、A2型及びA3型は主にエキソン7内の一塩基置換で生じるの(はてな?)についてシェアしたいと思います。

 現在使用しているモノクローナル抗A試薬では、A2型及びA2B型は通常のA型及びAB型と判定されます。そのため、これらの表現型は現在では通常のA型又はAB型として取り扱われています(検出する方が難しい)。一方、A3(A3B)型レベルに抗原量が低下してくると、抗Aとの反応が弱くなったり、部分凝集が観察される検体も出てきます。抗原量には幅(バリエーション)があるため、A2及びA3(A2B及びA3B)型を明確に区別することは出来ず、A2型とA3型の中間型に相当する検体もあります。赤血球上の抗原量の多い少ないについては、抗A試薬を2倍連続希釈し、被凝集価として観察する方法もありますが、現在ではフローサイトメトリー(FCM)によって詳細に検査出来るようになりました。これらの検体の多くは、血漿中のA転移酵素活性は認められません(A2B型の一部は認める)。そのため、主にABO遺伝子のエキソン7内の一塩基置換が原因と推測されていますが、日本人のA2(A2B)及びA3(A3B)型ではどのような対立遺伝子が対応しているかを380例あまりの検体で調べてみました。上述したとおり、A2及びA2B型は通常のA型又はAB型と判定されるため、臨床的には意義がありません。また、A3(A3B)型についても、血清中に不規則性の抗A1を保有しない限り、輸血の対応は通常のA型となります。ここでの検討目的は、一つの表現型から複数の対立遺伝子が同定されている事実を掴むこと、日本人から比較的多く検出される遺伝子を把握すること、そして特定の遺伝子がO遺伝子又はB遺伝子とヘテロ接合した際、A抗原量に違いが出るかを調べることが目的です。つまり同様の遺伝子においてもO遺伝子とヘテロ接合した場合はA2型となり、B遺伝子とヘテロ接合した場合は、H抗原への競合が生じるためA抗原よりもB抗原の方が糖付加が増加(A抗原の糖付加は減少)し、その結果A3B型程度の表現型になる場合があることを確認することです。

 対象にした検体は384例で、内訳は、A2型が86例、A2B型が253例、A3型が23例、A3B型が22例です。これらの検体について全て遺伝子解析とFCMによるA抗原解析を実施しました。血漿中のA転移酵素やレクチンとの反応性など基本的な血清学的検査は通常の亜型精査に準じて実施しています。

SL.1]にはA2(A2B)型の対応遺伝子を、[SL.2]にはA3(A3B)型の対応遺伝子の結果を示しました。日本人のA2型では、A202が最も多く、次いでA203A205が対応する遺伝子と考えられます。一方、A2B型では、A2型では検出されないA204アリルを保有することが特徴的です。A204は、O遺伝子とヘテロ接合の場合は、通常のA1型となり、B遺伝子とヘテロ接合の場合にのみ、A2B型となる特徴があります。A201は白人ではメジャーなA2アリルですが、日本人では殆ど検出されません。一方、A3型では、既知のA202アリルが一部同定されましたが、9割弱がA2アリル以外の遺伝子背景でした。また、A3B型では、8割が既知のA2アリルであるA202及びA203が関与していました。この2つのアリルはB遺伝子とヘテロ接合した場合、顕著にA抗原が低下し血清学ではA3B様に観察されるのが要因と考えられます。

SL.3]は、今回同定したA2型、A3型に対応するアリルとA抗原量を対比させた模式図です。各アリルが対応するA抗原量には、ある程度範囲があります。また、A2型に対応するアリルの一部はB遺伝子との組み合わせでA3B型となる場合もあります。これらは、すべてエキソン7内の一塩基置換であり、血漿中のA転移酵素は認められません(A204以外)

SL.4]は、A2アリルであるA202を保有した一家系を調べたものです。同じA202を保有していても、B遺伝子とヘテロ接合した際には、血清学ではA3B型と判定されます。従って、血液型(表現型)の判定は、あくまで血清学で判定する必要があります。

(補足)A201A205はISBT表記ではABO*A2.01~ABO*A2.05ですが、この記事の中ではA201~205と表記しています。また、現在ABO*A2.20までのアリルが報告されています。

 

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