血液型検査のサポートBlog

血液型検査(輸血検査)で生じる悩みや疑問(はてな?)をサポートする医療従事者向けのBlogです。

#066:A202とA203は、B遺伝子とヘテロ接合で顕著にA抗原が減少するの(はてな?)

 日本人から検出されるA2型及びA2B型の多くは、主にA201~A205のA2アリル関与し、A202A203O遺伝子とヘテロの場合はA2型に、B遺伝子とヘテロ接合の場合はA2B型又はA3B型になる場合があることを#065の記事でシェアしました。ここでは、A2型に対応する遺伝子のA202A203は、B遺伝子とヘテロ接合で顕著にA抗原が減少するの(はてな?)について、もう少し深掘りした内容をシェアしたいと思います。

 ABO亜型と考えられる検体の多くはオモテ検査の抗A又は抗Bと反応性が弱い又は部分凝集などで気がつくことが多く、赤血球上の抗原が通常の表現型よりも少ないことを簡便に確かめる方法は、抗A又は抗Bを2倍連続希釈し、通常の表現型検体を対照に被凝集価で比較します。現在市販されている抗A試薬は、通常A1型と1,024~2,048倍程度を示し、A2型では128~256倍、A3型では8~16倍程度というのが一般的な例です。32倍~64倍あたりが、A2型とA3型の中間型のようなイメージとなります。

もう少し詳細に抗原量を調べるとなると、フローサイトメトリーを用いて解析を行います。フローサイトメトリーとは、細胞生物学で一般的に活用されている技術であり、フローサイトメーター装置を用いて、液体に懸濁した細胞(ここでは赤血球)がフローセルを通過する際に、レーザー光を放射させ、検出器で光散乱を蛍光強度として電気検出装置で測定します。調べたい赤血球抗原に対する抗体を感作(一次抗体)し、その後、FITCなどの蛍光色素を感作した一次抗体に二次架橋させて、その蛍光度合い(一次抗体が多ければ蛍光も強い=抗原が多い、少ない場合はその逆になる)を測定し抗原量を調べるものです(FCMの詳細については専門書を参照してください)。

 ここでシェアする検討内容は、A2遺伝子タイプがわかっているA2型及びA2B型において、一方にO遺伝子の場合とB遺伝子の場合でA抗原量に違いがどの程度出るかを観察するのが目的です。また、各遺伝子によって特徴があれば、遺伝子検査をしなくてもある程度推測ができる、と考えて検討しました。

SL.1、SL.2]に、A202~A205O遺伝子とヘテロ接合したパターン(A2型)とB遺伝子とヘテロ接合したパターン(A2B型)を示しました。A202A203A2アリルとO遺伝子の場合は、A1型に比べて左(陰性側)へシフトし、山(ヒストグラム)も幅が広くなります(抗原量が少ないことを意味する)。一方、B遺伝子の場合は、A抗原が顕著に陰性側の方へシフトします。この現象は同じA2アリルのA205では観察されませんでした。つまり、A202A203の場合は、B遺伝子があると競合によってA抗原が顕著に減少するため、一部はA3B型になる場合もあるということを示唆しています。A204は、A2B型からしか検出されませんが、FCMで特徴のあるヒストグラムパターンが観察されました。これらのパターンは、数百例実施しましたが同様のパターンであり、血清学検査とFCM解析からA2アリルをある程度予測できるということになります。

 このような検体を数百例実施していると、時々、典型例と合致しないパターンの検体に遭遇します。それが[SL.3、SL.4]に示す検体で、血清学的検査ではA2型でしたが、FCMのパターンが通常のA2型よりも陰性側へシフトしていること、遺伝子検査では既知のA202~A205が検出されないことから、もう少し深掘りして解析したところ、これまで検出されない変異(c.778G>A)が同定されました。また、この変異遺伝子は、我々が検出してから数年後に中国からレアなA2アリルとして論文報告され、現在ではABO*A2.19A219というアリル名が付いています。おそらくアジア人に存在する遺伝子だと考えられます。

 A2型及びA2B型は、現在使用している抗A試薬では通常のA型及びAB型と判定され、臨床的にも問題になることはない表現型ですが、遺伝子型とA抗原量の関連性を調べるには都合がよい(ある程度の頻度で検出される)検体でした。この検討で得たことは、遺伝子検査を実施する場合は、血清学的検査に基づいてグループ化(FCMや血清学の結果が類似したグループ)してから遺伝子解析を行った方が抗原量の減少と遺伝子との関連性が明らかになりやすいという点です。また、通常の典型例を数百例実施することは、少し異なったタイプをおかしいと認識できるということです。輸血検査においても通常の表現型の検体や不規則抗体陰性の凝集を自分の目で数多く見ることは、ちょっと変わった検体への気づきが敏感になり、決して無駄な作業ではないと思います。

 

f:id:bloodgroup-tech:20200630080306j:plain

f:id:bloodgroup-tech:20200630080329j:plain