血液型検査のサポートBlog

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#064:Bm型とB/Oキメラの鑑別には遺伝子検査が有用の(はてな?)

B型の亜型の多くは抗Bと直接凝集を示さないBm型であり、Bm型は日本人から検出される亜型の中で最も多く検出されます。オモテ検査はO型、ウラ検査はB型を示す典型的なオモテ・ウラ不一致の亜型です。一方、B型の混合比が1%程度のB/OキメラにおいてもBmと同様の性状が観察されます。ここでは、Bm型とB/Oキメラの鑑別には遺伝子検査が有用の(はてな?)についてシェアしたいと思います。

 Bm型の血清学的特徴は、オモテ検査の抗A及び抗Bとは凝集を示さず(O型)、ウラ検査では抗Aのみ存在(B型)します。B抗原が少ないからといってB3型、Bx型及びBel型などのように不規則性の抗Bを保有することはありません。抗B試薬による吸着解離試験で解離液中に抗Bが観察され、赤血球上のB抗原が証明されます。また、血漿中のB転移酵素活性は通常のB型同様に認めます。唾液中の型物質も分泌型であれば通常のB型同様に検出されます。これらはBx型やBel型との鑑別点の一つとなります。Bm型はこのような性状を示す亜型であることから、赤血球上のB抗原だけが顕著に減少した亜型(通常の亜型は転移酵素活性が認められず、唾液中の型物質も減少する)と考えられ、その原因については長年不明のままでした。

 2012年、ついにBm型のメカニズムが解明されました。ABO遺伝子のイントロン1内には赤血球系細胞に特異的な転写制御領域(エンハンサー領域)が存在します。この領域の一塩基置換や一部塩基欠損によってA3型やAm型が生じることは、#61の記事でシェアしました。Bm型はこのエンハンサー部分を含む、5.8kbの欠損があることが報告されました[SL.1、SL.2]。エンハンサー領域の欠損は赤血球の抗原発現に関与する領域であり、血漿中の転移酵素や唾液中の型物質には関与しません。従って、Bm型は通常のB型と比べて抗原量のみが顕著に減少している亜型であることが解明されました。全国で検出された1,303例のBm及びA1Bm型を調べた結果、99.8%にあたる1,300例は、イントロン1の5.8Kb欠損であることも分かりました(3例はレア症例)。我々が独自に行った調査は[SL.3]に示しますが、他の亜型の中で同じ欠損は認められませんでした。血清学と遺伝子結果の一致率が非常に高く、遺伝子検査で亜型を決定しても問題とならない一致率と考えられます。血液型は血清学で決定するもの、と言っていたではないか?と思う人がいるかもしれませんが、それは一つの表現型から複数の対立遺伝子が検出されること、もう一方の対立遺伝子(O遺伝子なのか、A又はB遺伝子なのか)によって抗原量が異なる場合がある亜型については血清学を重視することに変わりありません。「遺伝子検査で亜型を決定しても問題ない」というのは、勿論血清学検査を一通り行った上で、特定の遺伝子が検出された場合には、家系調査などを実施しなくても亜型の決定が出来るという意味です。現在、これに該当出来るのは、Bm型とcisAB型が代表例です。この二つの亜型については表現型と遺伝子がほぼ一致するというのが理由です。

 血清学検査でBm型と類似の反応を示すものに、B型の混合比が1%程度のB/Oキメラがあります。混合率が1%程度では、オモテ検査の抗Bとは陰性でO型と判定されます。しかし、抗Bによる吸着解離試験を行うと、Bm型同様に抗Bが解離されます。また血漿中のB転移酵素や唾液検査もBm型同様な反応を示し、判断に迷う場合があります。また、唾液や爪などの試料が確保できない場合や非分泌型個体では判定困難となります。このようなケースにおいては、遺伝子検査でイントロン1の5.8Kb欠損(Bm5.8アリル)であることが分かれば、Bm型と決定することが可能となります[SL.4]。

 仮に、B型の混合比が1%程度のB/OキメラをBm型と誤判定したとしても、その時の輸血等には影響はありません(B/Oキメラであっても輸血の対応はB型であるため)。この判定間違いに気が付くのは、おそらくこの方の子供が通常のB型となった場合でしょう。わかりやすい例でいうと、配偶者がO型の場合はBm型の子供はBm/OのBm型か、O/OのO型になります。通常のB型が生まれることはありません。逆にB/Oキメラ(本来の血液型がB型)であれば通常のB型が生まれる可能性があります。

 Bm及びA1Bm型の判定で注意しなければならないのは、Bの割合が少ないキメラ(B/O=1:99、B/A=1:99)との鑑別であることを知っておく必要があります。1%の混合率では直接凝集は観察されませんが、抗B吸着試験では抗Bが検出されて騙される!ということです。

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