血液型検査のサポートBlog

血液型検査(輸血検査)で生じる悩みや疑問(はてな?)をサポートする医療従事者向けのBlogです。

#063:プロモーター領域の変異で生じたB3型の一例の(はてな?)

 ABO血液型には多種の亜型が存在し、その遺伝子背景も様々です。B亜型の中で、B3型はA3型同様に、抗Bと部分凝集を示すことが一つの特徴です。B型ではA型とは異なり、A2型に相当する亜型カテゴリーがないため、B3型といっても比較的強い凝集を示す検体から非常に弱い検体まで様々です。ここでは、プロモーター領域の変異で生じたB3型の一例の(はてな?)についてシェアします。

 今回紹介する検体は、オモテ検査で抗Bと部分凝集を示し、ウラ検査では通常のB型判定でした。抗Bによる被凝集価も32~64倍あり、典型的なB3型よりは正常側に近い感じでした。抗Bと大きな塊が出来るものの、反応しない赤血球もあることから、疾患等による後天的な抗原減弱と類似の反応でした。また、血漿中のB転移酵素活性は通常のB型よりも弱いながら検出されました[SL.1、SL.2]。これによってさらに迷うことになります。というのも血漿中のB転移酵素が陰性であれば、ABO遺伝子のエキソン領域に一塩基置換があることが想定されますのでB3型の可能性が示唆されるところですが、転移酵素活性があるということは、Bmos型、抗原減弱、B/Oキメラ、エキソン領域以外の変異を有するB3型の可能性を考慮しなければなりません。スライド法の反応性からキメラは否定的であり、被検者の背景から疾患等による抗原減弱も否定的でした。そこで、遺伝子解析を実施したところ、ABO遺伝子のエキソン及びスプライシング部位には変異を認めませんでした。しかし、翻訳開始点よりも上流側にあるプロモーター領域の-68番目に一塩基置換がありましたSL.3]。結論から言うと、この変異がB抗原を低下された原因です。

 プロモーターとは遺伝子の上流にあり、RNAへの転写が開始されるDNA上の領域です。ここにはDNA結合蛋白質と呼ばれる転写を促進したり、抑制したりする蛋白が結合するため、その領域の塩基配列(並び)が変わることで結合蛋白が正常に結合できず転写活性が低下すると考えられます。今回の検体において、ルシフェラーゼプロモーターアッセイという方法で転写活性を測定したところ、-68G>T変異では通常のB型個体の転写活性を100%とした場合、18%まで低下していることが分かりました。この転写活性の低下によってB抗原の糖付加が低下し、結果としてB3型を生じたと考えられます。

 これまでは、A3型及びB3型の遺伝子解析は、ABO遺伝子のエキソン領域(主にエキソン7)を中心に遺伝子解析されてきたため、今回のような検体や、A3型でエキソン7領域に変異のない検体では解決に至らず、個体差と言われたり、Amos型、Bmos型などという大きな間違いではない便利な呼び方で片付けられてきましたが、やはり、通常と異なる表現型には何かしら原因が存在すると言うことになります。特に今回のB3型の検体のように、それほどB抗原量が顕著に低下していないタイプは、AMLやMDSなどの血液疾患の際に観察される後天的な減弱とよく似ています。従って、まずは被検者の病歴や疾患等を確認し、疾患等による減弱の可能性が殆どないという前提が必要です。

 ここ数回はABO亜型の遺伝子解析の記事をアップしていますが、ABO亜型の決定に遺伝子検査が必須という意味で記事にしている訳ではありません。血液型は基本的には血清学(特異抗体との反応、レクチンとの反応、転移酵素活性、唾液中の型物質の有無)で決定されます。また、輸血の現場では血清学に基づいて輸血が実施されます(血清中の抗A及び抗Bの有無が重要)。遺伝子解析を実施することで、同じ表現型の中で微妙に抗原量が異なる理由を裏付ける理由が分かること、結果の解釈に役立つことがあること、血清学では知り得ない情報や血清学の限界を補填出来る場合があること、新しい知見をシェアする意味で記事にしていますのでご理解下さい。遺伝子解析を実施しないと亜型判定をしてはいけないという意味ではありません。

 

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