血液型検査のサポートBlog

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#061:赤血球系細胞に特異的な転写制御領域内の変異によるA3型の(はてな?)

 ABO血液型の亜型の一つであるA3型は抗Aと部分凝集反応が観察されることが一つの特徴とされています。しかし、部分凝集の程度や血漿中のA転移酵素活性にはバリエーションがあり、一様ではありません。ここでは、赤血球系細胞に特異的な転写制御領域内の変異によるA3型の(はてな?)について、シェアしたいと思います。

 これまでA3型と判定された多くはABO遺伝子のエキソン内の変異であることが知られています。抗Aとの反応は微細な凝集を示し、抗Aによる被凝集価は4倍~32倍程度と、明らかに通常のA1型よりも弱い反応を示すことが検出のきっかけとなります。しかしながら、時々、抗Aと部分凝集が観察されるものの、A1型と同程度の被凝集価やA転移酵素活性を示すA3も検出されます。これまではAmos型などと呼ばれてきた一部も含まれます。最近の研究でこの様なパターンを示す検体のメカニズムが分かってきました。これらの検体はABO遺伝子のエキソン領域の変異ではなく、イントロン1内に存在する赤血球系細胞に特異的な転写制御領域に一塩基置換を認めることが分かりました。

 これらの検体を解析して分かったことは、①スライド法での凝集開始時間は既知のA3型と比べ同等もしくは若干早い、②抗Aによる被凝集価は64~256倍程度とA3型としては高めである、③血液型キメラや抗原減弱例検体に類似した凝集パターンである、④抗Aの希釈系列において微細な凝集が高希釈のところまで観察される、などの特徴を示します。つまり、A1型に近い抗原量を持つ血球が僅かに存在することが示唆されました。また、ウラ検査は通常のA型であり、低温下においても不規則性の抗A1は認められません。そして、血漿中のA転移酵素活性は、検討した11例全てが通常のA1型と同程度を示し、既知のA3型とは異なっていました。通常ABO遺伝子のエキソン6又は7領域に一塩基置換があると、ガルサーブABなどの試薬を用いた検査では血漿中のA転移酵素活性は認められません。この点がポイントになる点です[SL.1、SL.2]。

 FCMを実施した例を[SL.3]に示しますが、右側の2つは既知のA3型で、上段はエキソン7に一塩基置換を持つ典型的なA3型、下段はスプライシング部位に変異を持つA3型です。今回の例はこれらとは少し異なり、緑色で示したグループI の3例は陰性側にピークを有し、カウント数は少ないものの陽性領域まで連続的に続くパターンです。青で示したグループII の8例は陽性領域の割合が若干高いヒストグラムパターンを示した。ABO遺伝子型は、11例全てA/O型であり、A遺伝子のプロモーター領域、エキソン1から7、スプライシング部分には変異は認められませんでした。しかし、赤血球系細胞の発現調節に特異的なイントロン1の転写制御領域に一塩基置換が認められた

フローサイトで陽性割合の低いグループI(3例)は、スタートコドンから数えて5909番目の塩基がA(アデニン)からG(グアニン)へ変異し、陽性割合の高いグループII(8例)は、5893番目の塩基がG(グアニン)からA(アデニン)へ変異していました。今回解析したA3型11例は、これまで報告されたA3型と異なり、血漿中A転移酵素活性が通常のA1型と同程度を示し、遺伝子解析ではエキソンとその境界付近に変異は認められませんでした。

 今回一塩基置換が確認された5893番及び5909番塩基は、Am型にみられる23bpの欠損配列内に存在していました[SL.4。変異していた塩基の近傍にはGATAやRUNX1などの転写制御因子の結合モチーフが存在し、この配列上の一塩基置換によって転写活性が低下したことが推測されました。転写制御領域の変異によって生じたと考えられるA3型では、血漿中A転移酵素活性が通常のA1型と同程度認められ、部分凝集は呈するものの通常の抗原量を有する赤血球も存在します。これまでの概念で考えると、Amos型や疾患等による抗原減弱例の可能性が示唆されますが、今後は赤血球系細胞に特異的な転写制御領域内の変異によるA3型もまれに存在することも考慮する必要があります。

 

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