血液型検査のサポートBlog

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#060:Miltenberger抗原に対する抗体の(はてな?)

 MNS血液型システムは、現在49抗原が確認されています。そのうち、多型性を示すM、N、S、s(4抗原)の他に、GPAのミスセンス変異によって生じたOr、Osa、MNTDやGYPAGYPBのハイブリッドで生じたMiltenberger抗原群などの低頻度抗原が多く存在します。これら低頻度抗原に対する抗体は自然抗体として保有していることがあります。ここでは、Miltenberger抗原群に対する抗体の(はてな?)についてシェアしたいと思います。

 Miltenberger抗原群に対する抗体は自然抗体として検出されますが、通常の不規則抗体スクリーニングや抗体同定用パネル赤血球には、これら低頻度抗原が含まれていることは稀であるため、抗体を保有していても検出されることは稀です。時々、市販品パネル赤血球にMi(a+)型と表記されたパネル赤血球が含まれている場合があり、この赤血球と陽性反応を示すことでたまたま検出される場合もあります。多くは、主な血液型に対する抗体陰性者の交差適合試験において陽性反応を示し、供血者赤血球のDATが陰性の場合は低頻度抗原に対する可能性が示唆されることになります。

 通常、低頻度抗原に対する抗体は、例えばKpaやKpc抗原陽性赤血球と陽性であれば抗Kpaや抗Kpcと同定し、Cw抗原陽性赤血球と陽性であれば抗Cwと同定して大きな間違いをすることはありません(勿論複数例のパネル赤血球との反応や他の抗体を否定したという前提です)。しかし、Mi(a+)赤血球と陽性の場合は、単純に抗Miaと同定するのは、ちょっと待った方が良いですよ、ということです。その理由は、Mia抗原はMiltenberger抗原群に属する抗原であり、Miltenberger血液型では、Mi.I~M.XIの抗原群のうち、Mia抗原が陽性は、Mi.I、Mi.II、Mi.III、MI.IV、Mi.VI、Mi.Xの6クラス存在します。このような血清では抗Mia単独保有の場合もありますが、多くの場合、他の抗体も混在しています。Mi(a+)というだけの情報ではMiltenbergerのクラス分類が不明であるため、抗Vw、抗Hut、抗MUT、抗Mur、抗Hil、抗Hopという抗体が混在している可能性があるということになります。そのため、数種類のMiltenberger赤血球を用いて血清の吸着操作を行い、吸着上清を用いて同定作業を行う必要があります。

【抗Hut+抗Mur+抗MUT保有血清の実例】市販品パネル赤血球との反応において、Mi(a+)表記の赤血球と陽性反応を示す血清について精査を行いました。その結果、抗Miaの保有はなく、実際には抗Hut+抗Mur+抗MUTを保有していた例です。これが前述したMi(a+)と陽性反応=抗Miaとは限りませんよ!という実例です。

SL.1]の表に示すとおり、Miltenberger表現型の中で、Mia抗原が陽性なのは、Mi.I、Mi.II、MI.III、Mi.IV、Mi.VI、Mi.Xがあります。これらのクラスの赤血球には他にも低頻度抗原が存在しますので、当然のことながら抗Mia以外の抗体の混在を確認しなければなりません。[SL.2]に示すとおり、被検者血清と何種類かの赤血球との反応を観察したところ、Mi.II、Mi.III、Mi.Xと陽性反応を示しました。①Mi.I赤血球とは陰性であることから、抗Mia及び抗Vwの抗体保有はここで否定されます。④Mi.V赤血球とは陰性であることから抗Hilの存在は否定されます。このあたりで、抗Hut、抗Mur、抗MUTあたりの混在が示唆されることになります。この考え方は主な血液型抗原に対する抗体を同定する場合と同様に、否定できない抗体を否定する場合は、1種類だけ抗原が陽性の赤血球との反応を観察するか、吸着操作によって抗体を分離し確認するということです。Mi.IIIの赤血球(Hut-、MUT+)で抗MUTを吸着し、吸着上清から抗Hutを同定(又は否定)します(②)。Mi.II赤血球(Hut+、MUT+、Mur-)で抗Hutと抗MUTを吸着し、吸着上清から抗Murを同定(又は否定)します(③)。抗Hilの存在は否定されているので、Mi.Xで抗MUTを同定するということになります(⑤)。このような操作で最終的に抗Hut+抗Mur+抗MUTと同定されます。

ここでのポイントは、Mi(a+)表記の赤血球と陽性=抗Miaとは限らないこと。これはMiltenberger関連抗体を同定する時には必要な知識となります。また、複数の抗体が混在する場合には一方の抗原が陽性の赤血球で吸着除去し、その吸着上清から混在する抗体の有無を調べる手法も同定テクニックの一つとなります。

 

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