血液型検査のサポートBlog

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#059:MNS血液型の低頻度抗原、Miltenberger抗原群の(はてな?)

 MNS血液型には、多くの低頻度抗原が存在します。このようなMNSバリアントのメカニズムはMN抗原が存在するグリコフォリンA(GPA)とグリコフォリンB(GPB)のハイブリッド分子によって生じています。その代表例がMiltenberger抗原群です。ここでは、MNS血液型の低頻度抗原であるMiltenberger抗原群の(はてな?)について、日本人から検出されるものに絞ってシェアしたいと思います。

 MN抗原は赤血球膜上のグリコフォリンA(GPA)に、Ss抗原はグリコフォリンB(GPB)にそれぞれ存在します。GPAをコードするGYPA遺伝子は7つのエキソン(A1~A7)から成ります。A1とA2の一部がリーダー配列のため切り取られて翻訳されません。従って、実際はエキソンA2の一部からA4までが細胞外領域に、A5が膜貫通領域に、A6及びA7が細胞内領域をコードしています(A2-A3-A4-A5-A6-A7の構造)。GPAは131個のアミノ酸残基から成り、M、N、Ena抗原などが存在します。

 一方、GPBをコードするGYPB遺伝子は5つのエキソン(B1~B5)から成りますが、A3に相当するB3は偽エキソンと呼ばれています。その理由は、イントロン3のスプライス部位(5末端側)がGTからTTへ変異しているため、B2の次にB3の翻訳がスキップしてB4が翻訳されるため、B3は翻訳されず切り出されてしまいます(B2-B4-B5-B6の構造)。B2、B4が細胞外領域をコードし、B5はA5同様に膜貫通領域をコードしていいます。GPBは72個のアミノ酸残基から成り、末端部の’N’やS、s、U抗原などが存在します。

 MNS血液型はGPAとGPBのハイブリッド分子を持つことが多いのが特徴です。GYPAGYPBは相同性が高く、密に連鎖しているため遺伝子間での不等交差や遺伝子変換によるハイブリッド遺伝子を生じやすい特徴があります。その代表例がMiltenberger抗原群です。Miltenberger抗原は血清学的な手法でMi.I~Mi.XIまで分類されてきましたが、現在ではグリコフォリンを意味するGPの後に発端者名の省略を記号として用いる表記に変わっています。つまり、Mi.I=GP.Vw、Mi.II=GP.Hut、Mi.III=GP.Mur、Mi.IV=GP.Hop、Mi.V=GP.Hil、Mi.VI=GP.Bun、Mi.VII=GP.Nob、Mi.VIII=GP.Joh、Mi.IX=GP.Dane、Mi.X=GP.HF、Mi.XI=GP.JLのように、グリコフォリンの変異分子の表記としては、例えばGP.Hil(GPAとGPBのハイブリットタイプ)ではGP(A-B)Hil、遺伝子表記はGYP*Hilという表記となります。

【GP(A-B)変異型】GYPAのエキソンA1-A3とGYPBのエキソンB4-B6のハイブリットによってその接合部に新たな抗原を生じます。B4がs由来である場合はHil抗原が陽性となり、GP.Hil(Mi.V)となります。B4がS由来であればTSENという抗原を生じGP.JL(Mi.XI)となります。このGP(A-B)Hilのホモ接合型赤血球では、Ena-FR領域が陰性(または弱陽性)となり、高頻度抗原のWr(a-b-)型となります(Wrb抗原はGPAとBand3の接合部に発現する抗原です)。

【GP(A-B-A)変異型】GP.Vw(Mi.I)、GP.Hut(Mi.II)、GP.Nob(Mi.VII)、GP.Joh(Mi.VIII)、GP.Dane(Mi.IX)などを生じるメカニズムです。いずれもGYPAのA3領域にGYPBの偽エキソンの3の一部が入り込んで生じます

【GP(B-A-B)変異型】GYPBの偽エキソンであるB3の3末端側にGYPAのA3が入り込むため、偽エキソンであるB3がA3由来のイントロンドナーサイトのGT配列に置き換わるため、エキソン(B3-A3)は蛋白として翻訳されることになります。そのため新たな抗原性を生じることになります。代表例は、GP.Mur(Mi.III)、GP.Hop(Mi.IV)、GP.Bun(Mi.VI)、GP.HF(Mi.X)などはこうしたメカニズムとなっています。また、GPBの末端部には、GPAのNと同じ配列があり、’N’と呼ばれています。GP(B-A-B)では、アミノ酸残基が103又は104になります(通常のGPBは72)、そのためM+N-型であってもこのGP(B-A-B)の’N’がモノクローナル抗体の抗Nと弱く反応する場合があります。GP.Murは、タイ人で約10%、香港で6%と陽性頻度が高く、臨床的意義がある抗体と考えられています(日本人の頻度は0.01%以下)。

Miltenberger抗原群と、ハイブリッド分子構造を以下に示します。図を参照しながら記事を見ると少しは理解しやすいと思います。Miltenbergerを理解するための一つのポイントは、GYPBの偽エキソンであるB3(本来翻訳されない蛋白)が、GYPAとハイブリッドを形成することで翻訳される蛋白になるため、新たな抗原を生じることがポイントになります。日本人から検出されるのは、Mi.II、Mi.III、MI.Xあたりが多く検出されます。

 

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