血液型検査のサポートBlog

血液型検査(輸血検査)で生じる悩みや疑問(はてな?)をサポートする医療従事者向けのBlogです。

#058:MNS血液型の新たな低頻度抗原SUMIの(はてな?)

 MNS血液型システム(ISBT002)には多型性のM、N、S、sの他に低頻度抗原、高頻度抗原を合わせて現在49抗原が存在し、Rh血液型システムの55抗原に次いで2番目に抗原数が多い血液型システムです。MNS血液型の49抗原のうち、半数以上が低頻度抗原です。ここでは、MNS血液型の新たな低頻度抗原SUMIの(はてな?)についてシェアしたいと思います。

 SUMI抗原が同定されるまでの経緯を簡単に説明すると、1900年に交差適合試験で陽性となった患者検体が発端でした。患者の抗体スクリーニングは陰性であり、主な血液型抗原に対する抗体の保有は否定的でした。当時、陽性となった血液製剤について低頻度抗原に対する抗体を用いて検査を行いましたが、既知の抗体とは陰性となり、未同定の低頻度抗原の可能性が高いことが示唆されました。暫定的に、この抗原をSUMIと呼称しました。酵素処理赤血球との反応で陰性になることから、SUMI抗原はMNS血液型系に属する低頻度抗原の可能性は高いことは当時から推測されていました。

 最初の遭遇から10年以上が経過し、抗SUMIモノクローナル抗体が樹立しました。今から3~4年前に30万件を超える赤血球の抗原スクリーニングとSUMI抗原陽性赤血球を用いた健常人血漿スクリーニングを実施し抗SUMI保有の有無を調べました。

SUMI抗原は、蛋白分解酵素であるficin、trypsin、α-Chymotrypsinの他、Neuraminidase処理した赤血球で抗原が破壊されることが判明しました。ノイラミニダーゼ(Neuraminidase)はシアリダーゼ(Sialidase)とも呼ばれます。簡単にいうと赤血球表面のシアル酸を切断する酵素です。この酵素で抗原性が失われるということは、抗体が認識する部分(抗原)は、シアル酸も認識している可能性が高いということです。つまり、MN血液型が存在するグリコフォリンA(GPA)に存在する可能性がさらに高いことが想定されました[SL.1]。

 SUMI抗原の本格的な解析として、SUMI抗原が血液型を担う既知のタンパク質に存在するかを明らかにするため、各種モノクローナル抗体を用いてICFA法(Luminex)による解析を行いました。その結果、GYPA(GPAをコードする遺伝子)のエキソン2がコードする周辺にSUMI抗原が存在する可能性が示唆されました。そこで、被検者の全血からゲノムDNAを抽出し、直接シークエンス及びTAクローニングによる遺伝子解析によってGYPA遺伝子のエキソン2近辺を中心に塩基配列を調べました。その結果、SUMI抗原陽性の個体は、全てMN血液型をコードするGYPA遺伝子に変異を有していることが判明しました。GYPA 遺伝子解析ではGYPA*M(M抗原をコードするGYPA遺伝子)と比較し、c.91A>C(p.Thr31Pro)の変異(91番目の塩基がアデニンからチミンへ変異し、31番目のアミノ酸がトレオニンからプロリンに置き換わる)を認めました。この遺伝子変異は全てM抗原をコードする遺伝子(GYPA*M)側で変異がありました。なお、GPAはN末端から19個のアミノ酸はリーダーペプチド(リーダー配列)であり翻訳されないため、実際には31番目のアミノ酸は、-19を引いた12番目のアミノ酸となります[SL.2、SL.3]。

 次に、SUMI抗原陽性赤血球を用いて、健常人血漿中に存在する抗SUMIについて調べた結果、約13%程度が抗SUMIを保有していることが判明しました。殆どがIgM性の抗体でしたが、Sal法で64倍の比較的強い抗体も検出されました[SL.4]。他の低頻度抗原に対する抗体の保有頻度と比較すると100倍以上保有率が高いことになりますが、保有者の内訳を調べても性別及び年齢との関連は見出せませんでした。この原因については今のところ分かっていません。

 GPAのN末端から12番目のアミノ酸付近には、O-Glycanが豊富に存在します。抗SUMIは、GPAの12番目のアミノ酸(Pro)に他に、周辺のシアル酸も同時に認識することが示唆されました。最初の遭遇から約30年が経過し、最新の技術等を活用してSUMI抗原は新たなMNS血液型の低頻度抗原であることが分かりました。この解析内容の詳細は、Transfusion誌の2020 May 1に掲載されています。おそらく、MNS血液型の新たな抗原としてISBT(国際輸血学会)の血液型リストに追加される可能性が高いと思います。

 

f:id:bloodgroup-tech:20200524215450j:plain

f:id:bloodgroup-tech:20200524215510j:plain