血液型検査のサポートBlog

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#057:Kell抗原減少が特徴のMcLeod表現型の(はてな?)

 Kx血液型はKx抗原の一種類で構成される19番目の血液型システム(ISBT019)です。Kx抗原はX染色体がコードするXK蛋白上に抗原が存在します。Kx抗原が陰性の赤血球ではKell血液型抗原が減少し、McLeod型(表現型)とも呼ばれています。ここでは、Kell抗原減少が特徴のMcLeod表現型の(はてな?)についてシェアしたいと思います。

  McLeod型とは、Kx抗原を欠損しているKx-型を指しますが、どちらかと言えば、Kx-型という言い方よりもMcLeod型の方が多くの人は聞き覚えがあると思います。Kx抗原を担うXK蛋白(膜貫通型蛋白)は、Kell糖蛋白の赤血球膜の根元の所でS-S結合し、Kell糖蛋白の安定性(立体構造の安定化)に関与しています。従って、McLeod型(Kx-型)では、Kell糖蛋白の発現が不安定となり、その結果、Kell関連抗原が減少します。そのため、McLeod型ではKell関連血液型のk、Kpb、Jsb、Ku、K14など(日本人では高頻度抗原)は通常の赤血球と比べて抗原量が減少する特徴があります。また、McLeod血液型はX染色体劣性遺伝形質のため、例外を除いて男性のみにみられます。Kx-型の変異遺伝子をX’で表すと、男性はX’YでMcLeod型となりますが、女性はX’X’の場合にのみMcLeod型になります。そのため、レア症例以外の女性は通常X’XのMcLeodキャリアとなります。つまり、Kx+とKx-のためKell抗原が正常な赤血球とKell抗原が減少した赤血球が混在します。これが典型的なモザイク(抗原量の異なる赤血球集団が混在)の一例となります。

 Kell関連抗体を用いて、Kell関連抗原を調べた際に、抗原発現が弱い場合には、McLeod型の他にKmod型があります。両者の鑑別はKxの有無ということになります。現在、Kx抗原(XK蛋白)の有無を調べる方法は、試験管法で検査が可能な抗体試薬(抗Kx)がないため、Kxペプチドで免役したマウス由来のモノクローナル抗体を用いてイムノブロッティング法によってKxの有無を判定する方法が唯一の方法です。また、遺伝子解析も有用な手段となります。McLeod型の遺伝子解析では、エキソンの欠失、スプライス異常、ナンセンス変異など様々な変異タイプが報告されています。

 McLeod型の個体が輸血や妊娠等で血清中に抗Kxを保有した際、赤血球輸血は同じ血液型(表現型)のKx-型(つまりMcLeod型)が必要になります。McLeodとKellは同じような血液型と思われがちであり、Kell抗原がnull型のKo型で適応可能なイメージがありますが、実はKo型ではKxの発現量が逆に増強しているため輸血には使用できません。Ko型はKell関連抗体の抗k、抗Kpb、抗Jsb、抗Ku、抗K14などKell血液型の高頻度抗原に対する抗体保有者へは適応は可能ですが、McLeod型(Kx-)個体が保有する抗Kx保有者には使用出来ません。

 日本人から検出されるMcLeod型は、およそ7~10万人に1人程度と推定されています。健常人からも検出されますが、McLeod症候群と呼ばれる神経疾患の患者からも比較的検出されます。McLeod型赤血球の特徴は、Kell関連抗原の低下、変形能低下による有棘赤血球及び赤血球寿命の低下があり、血清中のCPKの値が高いなどの特徴があります。さらに神経症状を呈し、筋力の衰弱、深部腱反射の低下、舞踏様運動、心筋症などを伴う場合もあります。しかしながら、McLeod型でないニューロパシーを伴う有棘赤血球症も存在するため、その鑑別にKell血液型抗原の検査を行う場合もあり、McLeod型と判明する場合もあります。また、McLeod型であっても上記症状が殆ど出現しない個体もあり、それらは遺伝子変異の違いによることも近年の研究で少しずつ分かってきました。従って、McLeod型でKell抗原の減少はほぼ全ての例で確認されますが、McLeod型=有棘赤血球、神経疾患などの病気とは必ずしも一致しないことは知っておいた方が良いと思います。

 

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