血液型検査のサポートBlog

血液型検査(輸血検査)で生じる悩みや疑問(はてな?)をサポートする医療従事者向けのBlogです。

#056:抗Lan保有者への輸血の対応の(はてな?)

 Lan抗原は赤血球上の高頻度抗原であり、抗原を担う蛋白はABC輸送体ファミリーに属するABCB6に存在しています(JR血液型はABCG2)。ISBT(国際輸血学会)では33番目の血液型システムとして登録されています。Lan-型は世界的にもまれな血液型であり、抗Lanの報告例が少ないため臨床的意義は明らかではありません。ここでは、抗Lan保有者への輸血の対応の(はてな?)についてシェアしたいと思います。

 Lan-型は、日本人ではおよそ50,000人に1人程度と推定されています。日本人から10数名のLan-型が検出されています。Lan-型個体のABCB6遺伝子解析によって現在までに日本人から10種類以上のnullアリルが検出されています。白人から検出されたnullアリルを含めると、国際的には現時点で37種類のnullアリルと7種類のLan+W(weak)に対応するアリルが報告されています。

 抗Lanは、輸血又は妊娠で産生される同種抗体であり、間接抗グロブリン試験で検出される抗体です。Jra抗原同様に、ficin、trypsin、α-Chymotrypsinなどの蛋白分解酵素、DTT及びAETなどの還元剤試薬、EGAなどの酸処理などで赤血球を処理してもLan抗原は破壊されませんSL.1]。また、抗体は抗体価が高くとも凝集力が弱く脆いHTLAの性質を示します。抗Jraの様な反応性と類似すると言った方が理解しやすいかもしれません。同じABC輸送体に抗原が存在するため、抗原抗体反応が類似するのも当然と言えば当然です。国内で抗Lanを保有した報告例は数例ありますが、輸血症例となると1~2例となります。そのため、抗Lanの臨床的意義についてははっきり分かっていません。

 このような実態の分からない状況の中で、以前、定期的に輸血が必要な患者さんが抗Lanを保有した例を紹介します。最初の輸血を行った時点では抗体を保有していませんでしたが、2ヶ月後くらいに交差適合試験及び抗体検査ですべて陽性となり、精査した結果、抗Lanと判明しました。運良く、主な血液型抗原(主要抗原)に対する抗体も保有していませんでしたので、溶血所見もなく抗LanによるDHTRも認められませんでした。患者さんはこの先継続的に輸血が必要なこと、抗体の性質上、HTLA抗体のため赤血球との結合力が弱く抗体価が上昇しても抗Jraなどと同様に血管外溶血を起こす可能性が低いこと、主な血液型に対する抗体(例えば、抗E、抗c、抗S、抗Fyb、抗Jka、抗Jkb、抗Diaなど)の産生を防止した方が継続的に輸血を行うにはDHTRを予防出来ることを総合的に主治医が判断し、患者さんの同意のもと主要抗原を合致させたLan抗原陽性の血液を使用することになりました。抗体検出時に8倍だった抗体価は、3ヶ月後には32倍、1年後には512倍まで上昇しました。しかし、LDHやT-Bilの上昇もなく、溶血所見は認められませんでした[SL.2]。単球貪食試験も定期的に実施しましたが、抗体価の上昇に関係なく、貪食率は10%以下(40%以下が陰性)であり、血管外溶血は起こっていないことが推測されました[SL.3]。この結果は、抗Jra、抗JMH、抗KANNOなどを用いて貪食実験した時と同様の結果でした。興味がある方は、#050:抗Jra、抗JMH、抗KANNOの単球貪食試験の(はてな?)を参照ください。

 抗Lanについては、報告数が希少なため抗体の性質等についても不明な点が多いのが現状です。そこで、HTLAであることや補体結合性の有無などについて調べてみました。その結果、32倍と1,024倍の抗体を用いて、Lan陽性赤血球に結合する抗体量をフローサイトメトリーで検討した結果、1,024倍の抗体では32倍の抗体よりも1.5倍多く抗体が結合する程度でした[SL.4]。抗D等では、16倍の抗体よりも256倍の抗体の方が約8倍多く抗体が結合します。つまり、抗LanはHTLAの抗体であり、抗体価は臨床的意義にはさほど関係ないことが示唆されました。補体結合性については、抗Jraなどと比べると若干結合する程度であり、Kidd系抗体(抗Jka、抗Jkb)ように顕著に補体を結合する抗体ではありませんでした。今回の抗体はIgG1の抗Lanでしたが、IgG3などの抗体を保有した際には変わる可能性もあります。

 

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