血液型検査のサポートBlog

血液型検査(輸血検査)で生じる悩みや疑問(はてな?)をサポートする医療従事者向けのBlogです。

#055:試験管内溶血が観察される抗P、抗PP1PKの(はてな?)

 抗I、抗M、抗P1などの低温反応性のIgM性の不規則抗体を保有している血漿(血清)を用いたABO血液型判定のウラ検査では、ABO型に関係なく凝集し、一見ウラ検査がO型に判定される場合があります。しかし、通常実施しているABOウラ検査や不規則抗体スクリーニングの生理食塩液法において、試験管内溶血まで観察されることはめったにありません。ここでは、試験管内溶血が観察される抗P、抗PP1PKの(はてな?)についてシェアしたいと思います。

 輸血現場において、P1PK血液型とGloboside血液型の理解が必要になるのは、被検者が、これらの血液型抗原に対する抗体を保有した場合の輸血対応です。抗P1は日常検査において検出される抗体ですが輸血には無害の冷式抗体です。P1-型(P2と記載する場合もある)の個体が自然抗体で保有することが多く、殆どがIgM性の抗体です。しかし、P1抗原は個々の赤血球で抗原量に強弱があるため、P1+S(strong)赤血球では、PEG-IATなどを行った場合に、時々持ち越し現象で陽性反応を示す場合もあります。また、抗原量にばらつきがあるため、弱い抗体ではパネル赤血球の抗原組成表のP1抗原の「+」とパターン通りに反応しない場合もあります。輸血においては交差適合試験で適合する血液が得られるため輸血対応に困ることはありません。

  輸血上問題となるのは次のようなケースです。自己対照赤血球を除く検査した全てのパネル赤血球と食塩液法から強い凝集が認められ、ブロメリン法及び間接抗グロブリン試験まで凝集が観察されるケースです。血清を用いた際には食塩液法や酵素法、ABO血液型判定のウラ検査で溶血反応が観察されます。このような性質を示す抗体に遭遇した場合は、PK型個体が保有する抗P又はp型個体が保有する抗PP1PK(抗Tja)を最初に疑う必要があります。これらの抗体は通常自然抗体として血清中に存在し37℃まで活性のある危険な抗体です。妊娠又は輸血歴のない個体でも保有している例が殆どです。Bombay型が保有する抗H、i型が保有する抗Iと同様に、PK型やp型ではほぼ例外なく抗P、抗PP1PK(抗Tja)を保有しています。これらの抗体はいずれも自己対照赤血球を除く全ての赤血球と食塩液法から陽性反応を示す特徴があります。D- -型が保有する抗Rh17やKo型が保有する抗Ku、Di(a+b-)型が保有する抗Dibなどは免疫抗体であり、通常ブロメリン法~間接抗グロブリン試験で陽性を示すため、この点が一つの目安(鑑別ポイント)になります。また、PK抗原、P抗原は、ficin、trypsinなどの酵素やDTT及びAETなどの化学処理によって抗原が破壊されないため、混在抗体の有無を確認するには、同型(PK型やp型)で表現型の異なる複数の赤血球が必要となります。しかし、PK型やp型は非常にまれな赤血球であり複数例の赤血球を準備できない場合が多く、現実的には被検者と主な血液型(表現型)が同じ同種赤血球を用いて抗P又は抗PP1PK(抗Tja)のみを吸着除去し、吸着後上清とパネル赤血球との反応性から、被検者が保有する可能性のある主な血液型抗原に対する抗体の有無を確認することになります。

 抗P又は抗PP1PK(抗Tja)は溶血性の強い抗体であり、不適合赤血球を急激に破壊し、溶血性副作用の原因抗体となります。また、抗PP1PK(抗Tja)を保有した妊婦では流産を繰り返す症例が多く、血漿交換等により回避した例も報告されています。PK型、p型ともに日本人では非常にまれな血液型であり、検出頻度は10~20万人に1人程度と推定されています。そのため、PK型やp型の患者が検出された場合には、血縁者の検査を勧めることも重要です。

 

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