血液型検査のサポートBlog

血液型検査(輸血検査)で生じる悩みや疑問(はてな?)をサポートする医療従事者向けのBlogです。

#054:P1PK血液型とGloboside血液型の(はてな?)

 P血液型(P1)は1927年にLandsteinerとLevineがヒト赤血球免疫ウサギ血清中の抗体を用いて発見した血液型です。近年P転移酵素,Pk転移酵素を担う遺伝子がクローニングされ、その遺伝的背景が明らかとなりP血液型はP1PK血液型にシステム名が変わりました。一方、高頻度抗原であるP抗原(P1とは異なる)はGloboside血液型に属しています。これらの生合成メカニズムは複雑で専門書を開くと途中で読むことを挫折してしまいます。ここでは、P1PK血液型とGloboside血液型について可能な限り簡素にして、ポイントをシェアしたいと思います。

 P1PK血液型は多型性のP1と高頻度抗原のPk及び低頻度抗原のNOR抗原の3抗原で構成されます。一方、Globoside血液型は高頻度抗原のP抗原及びPX2の2抗原で構成されています。どちらの血液型も前駆物質が同じ糖鎖構造を持つラクトシルセラミドから生合成されます。P関連抗原は、lactosylceramideにα1,4galactosyltransferase(A4GALT)の作用によってガラクトースが結合し、Pk抗原が生合成されます。次にPk抗原を受容体としてβ1,3-N-acetylgalactosaminyltransferase(B3GALNT1)の作用によって高頻度抗原であるP抗原が合成されます。また、別経路で生合成されたパラグロボシドを受容体にしてPk抗原の合成と同じA4GALTによってガラクトースが付加されP1抗原が生合成されます。つまり、Pk抗原とP1抗原の生合成は、同じ糖転移酵素のA4GALTによって生合成されることが分かったことからP1PK血液型として整理されました。同様に、P抗原とPX2抗原も同じB3GALNT1によって生合成されるため、同じ血液型システムとなっています[SL.1]。

 通常、P関連抗原は抗P1、抗P、抗Pk、抗PP1Pkとの反応から分類されています[SL.2]。抗LKEとはLKE抗原に対する抗体で、LKE抗原はP抗原にβGalとシアル酸が付加された抗原で、P抗原陽性者(殆どの人)は通常LKE抗原も陽性です(P抗原が陰性の個体はLKE抗原も陰性)。この抗原は血液型システムには含まれず、901シリーズ(高頻度抗原)に属する抗原(901017)です。

 P1PK血液型とGloboside血液型について輸血検査に必要な知識を整理すると、①P1抗原は多型性であり日本人では30%程度が陽性、70%が陰性であること、②PK、P抗原は高頻度抗原であり99%以上の人は抗原が陽性であること、③P抗原が陰性の個体はまれな血液型(PK又はp型)であること、④p型はP1、PK及びP抗原の全てを欠くnull型(まれな血液型)であること、⑤PK型個体は抗Pをp型個体は抗PP1PKを自然抗体としてほぼ例外なく保有していること、⑥抗P及び抗PP1PKは37℃で反応し溶血副作用の原因抗体となるため、輸血にはまれな血液型(PKやp型)が必要であること、⑦日本人でPK及びp型は非常に少ないこと、がポイントになります。

なお、p型が保有する抗PP1PKは、以前から抗Tjaとも呼ばれています。Tjというのは最初に抗体が検出されたがん患者のMrs.Jに因んだ抗体名です(Tはtumorのt、jはMrs.Jに由来)。現在では、抗P1PPKという記載が多くなってきています。

 

 

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