血液型検査のサポートBlog

血液型検査(輸血検査)で生じる悩みや疑問(はてな?)をサポートする医療従事者向けのBlogです。

#050:抗Jra、抗JMH、抗KANNOの単球貪食試験の(はてな?)

 抗Jra、抗JMH、抗KANNOは赤血球高頻度抗原に対する抗体であり、日本人から比較的多く検出される抗体です。抗Jra、抗KANNOは妊娠歴のある女性から検出率が高く、抗JMHは高齢者からの検出率が比較的高い抗体です。これらの抗体はHTLA(High Titer Low Avidity)の性質を示す抗体です。ここでは、抗Jra、抗JMH、抗KANNOの単球貪食試験の(はてな?)についてシェアしたいと思います。

 抗体の臨床的意義とは、抗体を保有した個体に対応抗原が陽性の赤血球を輸血した際、輸血した赤血球を体内で破壊するか否か(輸血効果が得られるか否か)です。体内で抗体感作赤血球が破壊されるメカニズムは、ABO異型輸血の際に生じる抗A又は抗B(規則抗体)による血管内溶血で、抗A又は抗Bが感作した赤血球には補体が結合し、血管内溶血を生じます。ABO以外の主な血液型抗原に対する抗体(不規則抗体)の場合は、血管内溶血を生じる抗体はまれであり、多くは抗体が感作した赤血球は脾臓へ運ばれ、そこでマクロファージ等の食細胞に貪食される血管外溶血を生じます。

 このような生体内の反応を試験管内の実験系にしたのが単球貪食試験と呼ばれる方法です[単球貪食試験の概要については、#035:単球貪食試験による自己抗体評価の(はてな?)]を参照ください。我々が日常的に実施している方法は、抗体感作赤血球と末梢血液から得られた単球をチューブ内で混合し、単球が抗体感作赤血球をどの程度貪食しているかをフローサイトメトリー(FCM)で測定し、貪食率を算出しています。

 一般的な抗体(不規則抗体同定用パネル赤血球に記載されている抗原に対する抗体)の場合は、抗体量が多い(抗体価が高い)場合は、対応抗原陽性の赤血球に結合する抗体量が多くなり、その結果、貪食率も上昇します。しかし、HTLAの性質を有する抗体の場合は、赤血球との親和性が低い理由から臨床的意義は低いと考えられている。そこで、日本人から検出頻度が高く、代表的なHTLA抗体である抗Jra(84例)、抗JMH(36例)及び抗KANNO(14例)を対象に単球貪食試験を行い、臨床的意義について調べてみました。比較対照として、臨床的意義が高いと考えられている抗D、抗Rh17、抗Dib、抗Kpb及び抗Kuを同時に行いました。結果を下記に示しましたが、HTLA抗体である3種類の抗体(抗Jra、抗JMH、抗KANNO)では抗体価の低い高いに関わらず貪食率が全て20%以下であり、高力価抗体であっても臨床的意義は低いと推察されました。一方、臨床的意義が高いとされる抗体では抗体価が16倍以下では貪食率が10%台でしたが、同じ特異性を示す抗体において抗体価が高い場合は60%以上の貪食率を示し、抗体価が高いほど危険な抗体(臨床的意義あり)であることが示唆される結果となりました。本題から内容が逸れますが、この結果から言えることは、日常的に検出されるような抗体(抗E、抗Fyb、抗Jka、抗Diaなど)の場合、PEG-IATで2+~3+程度(60分加温-間接抗グロブリン試験では1~2倍)の抗体では殆ど貪食されないということです。因みに60分加温-間接抗グロブリン試験で16倍程度の抗体では、LISS-IAT及びPEG-IATはいずれも4+になります。また、PEG-IATのような検出感度が高い方法で弱陽性の抗体を検出しようとしているのは、低力価の抗体を見逃した結果、抗原陽性血液を輸血し、その後二次免疫応答で100倍以上の抗体となった場合に貪食率が上昇する=DHTR(遅発性溶血性輸血反応)を発症する可能性があるからです。しかし、今緊急的に輸血が必要なくらい貧血の患者さんにおいて、60分加温-IATで陰性又はw+程度、PEG-IATで2+の反応の場合(特異性がはっきりせず赤血球抗体の可能性が低い場合又は輸血歴・妊娠歴がない場合=同種抗体の可能性が低い)は、躊躇すること無く救命を優先すべきと考えています。これはあくまでこれまでの抗体保有者への輸血の経験や貪食試験のエビデンスに基づく私見です。

 抗Jra、抗JMH、抗KANNOで感作した赤血球の単球貪食試験では、抗Dや抗Dibなどの臨床的意義があると考えられている抗体とは異なり、抗体価が高力価であっても貪食率が低値であり、臨床的意義が低いことが示唆されています。このような結果に基づき、抗JMHや抗KANNOの場合は適合血を選択しないということになります。また、抗JMHのIgGサブクラスは、殆どがIgG4(IgG4は単球に貪食されない)であるということも選択しない理由の一つです。一方、抗Jraについては希少ではありますが、抗原陽性血液の輸血によって溶血所見ありの報告例もあり、また抗原陽性赤血球を輸血後には抗Jra抗体価が顕著に上昇することも考慮し、可能な限りJr(a-)型の選択が推奨されています。

 

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