抗KANNOは、日本人から検出される赤血球高頻度抗原に対する抗体の中で、抗Jra、抗JMHに次いで検出率が高い高頻度抗原に対する抗体です。抗Jraと同様に女性(とくに妊婦)から検出されることが多い抗体です。ここでは、妊婦が保有する抗KANNOの(はてな?)についてシェアしたいと思います。
抗Jraが妊娠歴のある女性から多く検出される理由については、「#040:抗Jra保有者はなぜ女性に多い!の(はてな?)」の記事で紹介しました。日本人から検出される約6割は抗Jraであり、そのうちの94%前後は女性であること、初回妊娠においても抗体を産生する可能性があることを記載しています。抗KANNOについても女性からの検出が多く、妊娠と関連があることが示唆されています。こちらで調査した結果では、抗KANNO保有者38例のうち、37例(97%)は女性でした(1例は輸血歴のある男性)。しかし、抗KANNOによる新生児溶血性疾患の報告例はこれまで皆無であり、臨床的意義が低い抗体と考えられています。そこで、抗KANNOを保有している14例の妊婦を対象に妊娠中期と出産直前の抗KANNOの抗体価と出生した児の影響を調べてみることにしました(勿論、被検者全員から研究のための同意を得ています)。
[SL.1]には、妊娠初期・中期と後期(出産時)の抗体価の比較を示しています。抗KANNOの殆どは妊娠初期から中期に検出され、その時の抗体価は、60分加温間接抗グロブリン試験で16倍~32倍程度の抗体価があります。しかし、妊娠後期(出産前)になると抗体価は中央値で4倍程度まで低下していました。以前から、抗KANNOは出産が近くなるにつれて抗体価が低下することは経験していますが、詳細に調べてみてもその傾向がありました。この原因については、今のところ分かっておりません。妊娠後期に抗体価が低下する理由について、母親抗体が児へ移行するために抗体価が低下するのでは無いか?という仮説を立てました。しかし、もしもそうであれば、児への影響はないのか?ということも同時に考えました。
通常、新生児溶血性疾患の原因となる抗体(抗D、抗Rh17、抗Dibなど)では、[SL.2]に示すように、第一子目の出産を機に産生した抗体が、第二子目の妊娠の際、胎盤を通過して児へ移行し、児赤血球を破壊(血管外溶血)する機序によって新生児溶血性疾患が起こります。今回、10例の臍帯血の検査を行ったところ、10例すべてにおいて母親からの移行抗体(抗KANNO)は検出されませんでした[SL.3]。また、児の赤血球の直接抗グロブリン試験(DAT)も全て陰性であり、児赤血球の抗体解離試験においても母親由来の抗KANNOは検出されませんでした。児のKANNO抗原が未発達ではないことは既に複数例で確認していることから、新生児はKANNO抗原が少ないという理由で移行した母親抗体が結合していないということは否定的と考えられます[SL.4]。
母親が保有する抗体に対して、児赤血球抗原が陽性であれば、母親からの移行抗体は児の赤血球に結合し、DATが陽性になると推測されますが、HTLAの性質を有する抗体などでは時々このような現象がみられます。抗体価が低いことと、抗原(赤血球)との親和性が低いこと、赤血球上の抗原量が少ないことも関係しています。では、母親由来の抗体は一体どこへ行ったのか?、、、それは今のところ解決されておりません。ここからは私見ですが、児はKANNO抗原が陽性です。KANNO抗原を担うプリオン蛋白は、GPIアンカー型の蛋白であり、その一部は一定期間が過ぎるとrelease(切り取られて浮遊する)されると考えられています。もしかしたら、児のプリオン蛋白(KANNO+)の一部によって母親から移行した抗KANNOは中和されてしまうために、見かけ上、臍帯血からも抗体が検出されないのかもしれません。この現象については今後検討していく予定ですが、現時点では明確な答えは分かりません。