血液型検査のサポートBlog

血液型検査(輸血検査)で生じる悩みや疑問(はてな?)をサポートする医療従事者向けのBlogです。

#048:KANNO抗原を担うプリオン蛋白の(はてな?)

 約30年間、抗原を担う分子が解明されなかったKANNO抗原ですが、ゲノムワイド関連解析(GWAS)を用いた手法によって、第20番染色体短腕(20p13)のPRNP遺伝子にコードされたプリオン蛋白上に存在することがようやく分かりました。プリオン遺伝子(PRNP遺伝子)の655番塩基に一塩基置換(c.655G>A)を持つ遺伝子をホモ接合で持つ個体がKANNO-の表現型になります。ここでは、KANNO抗原を担うプリオン蛋白の(はてな?)についてシェアしたいと思います。

  KANNO抗原がプリオン蛋白上に存在していることを確認するため、MAIEA(Monoclonal antibody-specific immobilization of erythrocyte antigen)法を用いて確認しています。詳細は下のMAIEA法の原理(模式図)を参照ください。概要を簡単に説明すると、この方法はマイクロプレートの底にマウス抗IgGを固相し、次に未知の抗原蛋白を検出するために、特異性が既知の抗体を結合させます(特異性の異なる複数の抗体を準備)。抗原を結合させた後に、検出目的の抗原に対する同種抗体(ここでは抗KANNO)を結合させた後にペルオキシダーゼ標識抗ヒトIgGで二次架橋し、発色の程度から抗体が反応する蛋白を推測するという原理です。つまり、一次抗体(特異性が既知のマウス由来抗体)―抗原(一次抗体と反応する抗原陽性赤血球)―二次抗体(抗KANNO)でサンドウィッチし、サンドイッチされた場合に発色するイメージです。KANNO陰性赤血球を用いた場合は、二次抗体の抗KANNOが結合しないため、ペルオキシダーゼ標識抗体は結合せず、その結果発色もしません。今回の解析検討では、抗PRNPの他に抗DAF、抗Kell、抗GPCなどを使用し、KANNO抗原陽性と陰性の赤血球を用いて解析を行っています。その結果、KANNO陽性と陰性の赤血球で差が出たのは、抗PRNPを使用した場合のみでした。つまり、抗PRNPはKANNO陽性とは反応するがKANNO陰性とは反応しないということになります[SL.1]。他の抗DAF、抗Kell、抗GPCなどは、KANNO陽性及び陰性赤血球と反応するものの、その後に感作する抗KANNOとは反応しないため発色が起こりません。こうして、抗KANNOが認識する分子は抗PRNPと反応する蛋白(=プリオン蛋白)であることが証明されました。

 次にPRNP遺伝子をCHO-K1細胞(Chinese Hamster Ovary:チャイニーズハムスターの卵巣細胞)に遺伝子導入し発現実験した結果です[SL.2]。PRNP遺伝子の655番塩基をグアニン(PRNP*655G)にしたKANNO陽性タイプが①と②です。一方、PRNP遺伝子の655番塩基をアデニン(PRNP*655A)にしたKANNO陰性タイプが③と④です。①と③はプリオン遺伝子に組み込んだ緑色の色素のみの発色であり、CHO-K1細胞にPRNP遺伝子が組み込まれたことを意味します。②と④には抗KANNOを結合し、その後赤い色素で架橋した様子です。KANNO+の遺伝子を組み込んだ②は赤の発色が確認され、プリオン蛋白に発現しているKANNO抗原と反応していることが分かります。一方、④のPRNP*655AにしたKANNO-タイプでは、抗KANNOとは反応しないため、赤の発色はありません。つまり、プリオン遺伝子の655番目の塩基の違いでKANNO抗原の発現が異なることがわかりPRNP*655Gの場合にのみ抗KANNOとの反応が確認できたことになります。PRNP遺伝子の655番目の塩基の違いは、219番目のアミノ酸がグルタミン酸(Glu:E)からリジン(Lys:K)になるため、抗KANNOは219番目がグルタミン酸型のプリオンと反応し、219番目がリジン型プリオンとは反応しないという結論になります。こうして、KANNO抗原分子の実験的証明がされました。

 

f:id:bloodgroup-tech:20200423200424j:plain

*抗PrP=抗PRNP

f:id:bloodgroup-tech:20200423200453j:plain