血液型検査のサポートBlog

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#047:KANNO抗原の原因遺伝子解明の(はてな?)

 KANNO抗原分子の解析は、これまでに免疫沈降法やイムノブロッティング法が検討されましたが解明されていませんでした。そもそも抗KANNOはHTLA抗体の性質のため抗原抗体反応が弱いことが要因でした。そこで、ゲノム解析から絞り込む方法を用いてKANNO抗原を担う抗原分子をコードする原因遺伝子を解明する方法が用いられました。ここでは、KANNO抗原の原因遺伝子解明までの(はてな?)についてシェアしたいと思います。

  KANNO抗原解析に用いられた方法は、GWASと呼ばれる手法です。ゲノムワイド関連解析(Genome Wide Association Study;GWAS)とは、ヒトゲノム全体をほぼカバーする1000万箇所以上の一塩基多型(SNP)のうち、50万~100万箇所の遺伝子型を決定し、ヒトゲノム中のSNPをマーカーとして、二群間で頻度が異なるSNPを網羅的に解析する手法です。つまり、今回の例でいうと、KANNO抗原陽性(KANNO+型)集団とKANNO抗原陰性(KANNO-型)個体間において、それぞれの個体について約93万のSNPを調べて比較し、KANNO-型のみ保有している遺伝子変異(SNP)を探し出す方法です。健常人ボランティア約400名とKANNO-型個体(複数例)で比較しています[SL.1]。これまでの検討から、KANNO陰性者は、常染色体劣性遺伝することが推測されていましたので、発端者は変異型のホモ接合、発端者以外のKANNO陽性者は変異型ヘテロ又は通常型のホモ接合であることが想定されます。従って、そのSNPをターゲットとして候補遺伝子の絞り込みを行いました。その結果、第20番染色体に強い相関が認められました。これは、KANNO陰性者のみが有するSNPが存在する可能性が示唆されたことになります。絞り込まれた領域には、タンパク質をコードする遺伝子領域とそれ以外(イントロン)の部分が含まれるため、絞り込まれた領域をエキソームシーケンシングによってタンパク質をコードする領域を解析した結果、プリオン遺伝子領域中のrs1800014遺伝子が候補として浮かび上がりましたSL.2]。この遺伝子は、655番目の塩基がグアニン(G)からアデニン(A)へ変異(c.655G>A)し、その結果、219番目のアミノ酸がグルタミン酸からリジンへ置き換わっています(p.Glu219Lys)。この変異はプリオン蛋白の研究者の間では正常多型(通常の人でも存在する変異)として既に知られているものでした。

SL.3]には発端者1(家系-1の矢印)とその両親、配偶者の解析結果を示しています。発端者1のKANNO陰性者は655番塩基がA(アデニン)のホモ接合型となっています。一方、発端者1の両親(父親、母親)はKANNO抗原が陽性であり、655番塩基はグアニンとアデニンのヘテロ接合でした。配偶者(夫)は655番塩基がG(グアニン)のホモ接合型のKANNO抗原陽性でした。この他、表現型がKANNO陰性であった20例全てが、PRNP遺伝子の655番塩基がG(グアニン)からA(アデニン)へ変異したホモ接合遺伝子であることがわかりました。

SL.4]は、家系-3の家系調査結果です。この家系では発端者のみがKANNO陰性であり、発端者の姉及び子供はヘテロ接合のKANNO陽性でした。赤血球上のKANNO抗原をFCM解析した結果、ホモ接合のKANNO陽性である発端者の兄は抗原量が多く、ヘテロ接合のKANNO陽性者は半分程度の抗原量でした。遺伝子型と抗原量が合致している結果でした。

 KANNO抗原を担う分子は、第20番染色体短腕(20p13)のPRNP遺伝子にコードされたプリオン蛋白上に存在することが解明されました。KANNO抗原陰性者は、PRNP遺伝子に共通変異[c.655G>A(p.Glu219Lys)]を有していることが判明しました。血液型抗原分子がプリオン蛋白上に存在しているのは36の血液型システムの中にはありません。また、PRNP遺伝子の655番塩基の変異は、アジア系民族に多い変異であることも分かりました(アジア人では4~6%、欧米では0.1~0.004%)。つまり、KANNO-型がこれまで世界的に報告例がないのは、KANNO-型はアジア人特有の血液型(表現型)であり、抗体保有者もアジア系民族に限られてくるという背景があったということです。

 

 

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