血液型検査のサポートBlog

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#045:抗JMH+抗Sの抗体同定例の(はてな?)

 通常、抗JMHなどの高頻度抗原に対する抗体を保有した血漿(血清)では、不規則抗体同定検査及び交差適合試験(主試験)の間接抗グロブリン試験において、使用したすべての赤血球と凝集反応を示します。そのため、臨床的意義のある主な血液型抗原に対する抗体が混在していてもマスクされてしまいます。ここでは、抗JMH+抗Sの抗体同定例の(はてな?)についてシェアしたいと思います。

  抗JMHの性質及び特徴について整理すると、①高齢者に多く検出される。②抗JMHは間接抗グロブリン試験で検出される。③JMH抗原が後天的に減弱した個体から検出されるため、JMH抗原は陰性又は弱陽性になる。④自己対照赤血球は弱陽性になることが多い。⑤酵素及び化学処理でJMH抗原が破壊されるため、これらの処理赤血球との反応は陰性となる。⑥抗体はHTLAの性質を示すため抗体価が高くとも3+程度の凝集を示す(抗Dのような4+の凝集はみられない)。⑦PEG-IATと60分加温-IATが同等(又はそれ以上)の凝集が観察される。⑧HTLAの抗体であるため、対応抗原が陽性赤血球で吸着除去できない。ということは押さえておきたいポイントです。

 酵素処理赤血球との反応が陰性になる性質を示す抗体には他にも抗Ch/Rgや抗KANNOなどがあります。酵素処理によって抗原が人工的に破壊できるということは、混在する抗体を鑑別する際には、酵素処理赤血球を用いることで検出可能な抗体もあります。抗JMHに混在したRh系抗体、抗Jka、抗Jkb、抗Diaなどは、ficn処理赤血球を用いることで抗JMHの影響を受けずに検出が可能です。しかし、抗M、抗S、抗s、抗Fya、抗Fybなどはficin処理赤血球では、これらの対応抗原(M、S、s、Fya、Fyb)も破壊されているため、仮に抗体が混在していても検出できません。つまり、抗JMH+抗Eや抗JMH+抗Diaの場合は、ficin処理赤血球の反応で抗Eや抗Diaを検出できますが、抗JMH+抗S、抗JMH+抗Fybでは抗Sや抗Fybを検出できません。このようなケースでは、ficinの代わりにtrypsin(トリプシン)という蛋白分解酵素を用いることで検出することが可能です。

SL.1、2]に抗JMH+抗Sの実例を示しています。不規則抗体スクリーニングにおいて3本の赤血球とすべて陽性でした。生食法(22℃及び37℃)では陰性であることから間接抗グロブリン試験で検出される抗体であることが推測されます。また、自己対照赤血球が弱陽性(w+~1+)ですが、自己赤血球よりも同種赤血球の反応が強いことから抗赤血球自己抗体の可能性は低いことが推測されます。抗体価を測定した結果、256倍でHTLAの凝集が観察されたことから、抗Jra、抗JMH、抗Ch/Rg、抗KANNOの可能性と輸血による主な血液型に対する同種抗体の混在が推測されます。抗体価の結果から抗KANNOは若干否定的となります(通常、抗KANNOは64倍以下が多いため)。次に被検者情報を確認したところ、高齢者であること、1年前に輸血歴がありました。抗体を同定するには、抗体スクリーニング結果と被検者情報から、ある仮説を立ててその肯定と否定を繰り返します。また、主な血液型(表現型)が検査可能であれば、被検者の血液型に基づき保有する可能性のある抗体を推測します。

 同定用パネル赤血球との反応はすべて陽性(2+~3+)を示すことから高頻度抗原に対する抗体又は複数抗体の可能性が高いと考えられます(自己抗体は自己赤血球との反応の強さから否定的)。次にficin処理赤血球との反応を観察した結果、全て陰性であることから抗Jraは否定的となり、抗JMH、抗Ch/Rg、抗KANNOなどが絞り込まれます。高齢者であること、自己対照赤血球の反応及びficin処理赤血球の反応から抗JMHが有力な候補になるということになります。実際に同定する際には、ここでJMH陰性の赤血球との反応を観察します。

さて、混在する抗体の鑑別が必要です。被検者の血液型に基づき保有する可能性のある抗体は、抗S、抗Fyb、抗Jka、抗Diaですが、ficin処理赤血球との反応で抗Jka、抗Diaは否定されます。抗S及び抗Fybを同定するには、ficinではなくtrypsin処理赤血球との反応を観察します。その結果、抗Sの混在が確認されたということになります。従って、抗JMH+抗Sという同定結果になります。ここまでの過程において、検査試薬等の保有の有無も関係しますが、検査を進める方向性が重要であることを理解して頂けたら幸いです。輸血の際には、S-型の赤血球輸血を選択するということになります(抗JMHは臨床的意義がないためランダム血液で対応可)。

 

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