血液型検査のサポートBlog

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#044:JMH抗原と抗JMHの(はてな?)

 JHM抗原は、赤血球上に存在する高頻度抗原でありISBTの血液型リストでは26番目(ISBT026)の血液型システムです。JMHは、抗体保有者のJohn Milton Hagenに因んで命名されました。JMH-型の殆どは高齢者に多く見られ、後天的(又は一過性)にJMH抗原が減弱した表現型である。ここでは、JMH抗原と抗JMHの(はてな?)についてシェアしたいと思います。

 高頻度抗原であるJMH抗原を担う蛋白は、赤血球上のSemaphorin7A(Sema7A)に存在し、GPIアンカー型の構造を有していることが明らかにされています。遺伝子変異を伴う先天的なJMH-型の表現型は5種類の遺伝子変異(ミスセンス変異)が分かっています。しかし、日常検出される殆どの例では、加齢に伴った(又は一過性による)後天的なJMH抗原減弱によるJMH-型又はJMH+w型と考えられています。

 通常、抗JMHを保有した血漿(血清)では、不規則抗体同定検査及び交差適合試験(主試験)において、間接抗グロブリン試験で使用したすべての赤血球と凝集反応を示します。日本人から検出される高頻度抗原に対する抗体の中で抗Jraに次いで多く検出される抗体です。抗JMHを保有する個体の多くは、JMH抗原が加齢等によって減弱し抗体を保有することが多いため自己対照赤血球が弱陽性になります(抗体価が低い血清の場合は陰性になる)。また、直接抗グロブリン試験においても弱陽性を示す例が多いのが特徴です。そのため、一見自己抗体のようにみえますが、抗体価が高くとも凝集が弱く脆いHTLA(High Titer Low Avidity)の性質であることから、通常検出される抗赤血球自己抗体とは異なることに気が付きます。HTLA抗体であることから、PEG-IAT又はLISS-IATと60分加温-IATが同等もしくは60分加温-IATの方が強い凝集が観察されます。また、酵素(ficin、trypsin、α-chymotrypsin)及びDTT、AETなどで処理した赤血球では、JMH抗原が破壊されるため、抗JMHとの反応が陰性となります。通常はこれらの性質を活用して抗体を同定しています。

 抗JMHに類似した性質を示す抗体として抗KANNOが知られています。現在では抗KANNOと明確に区別できる様になりましたが、抗JMHと抗KANNOの凝集態度が非常に似ているため、以前はKANNOがJMH-likeと呼ばれていた時代もあります。鑑別点として、抗JMHはDTT又はAET処理赤血球と陰性になるのに対し、抗KANNOでは未処理赤血球と変わらない(抗原が失活しない)という点で鑑別します。また、抗JMHは256倍、512倍と比較的高力価な抗体も検出されますが、抗KANNOではせいぜい64倍程度の抗体価に留まります。また、抗JMHは高齢者から検出されることが多いのに対し、抗KANNOは妊婦から多く検出されます。抗JMH、抗KANNO保有者の背景の違いを[SL.1]に示します。抗KANNOに関しては別の記事でシェアします。

抗JMHが検出された場合の赤血球輸血の対応は、高頻度抗原に対する抗体であるものの、抗体のIgGサブクラスはIgG4が多く臨床的意義が低いこと、殆どの例でJMH抗原が弱陽性であるため、同種抗体としての抗JMHを産生しない理由から輸血上は問題ない抗体として扱われています。そのため、主な血液型抗原に対する抗体の混在の有無を確認し、輸血対応することになります。抗JMH保有者へランダム血液(JMH陽性)を輸血した例を[SL.2]に示しますが、輸血効果が得られ、その後抗体価の上昇も確認されませんでした。例外的に一部の例では輸血後に軽度の溶血所見があったとの報告がありますが、おそらくこれらは抗体では抗体価が高く、加えてIgGサブクラスがIgG1又はIgG3の混在があったのでは無いかと思われます。通常検出される抗体においては殆どがIgG4であり血管外溶血の可能性が低い(IgG2及びIgG4はマクロファージとの親和性が低く貪食されない又はされにくい)ため臨床的意義はないと考えられます。

 

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