1991年に既知の特異性と合致しない高頻度抗原に対する抗体が検出され、対応する抗原を発端者に因み暫定的にKANNO抗原、抗体を抗KANNOと名付けました。当時新たな血液型の可能性が示唆され、その後もKANNO抗原分子の解析が行われましたが解明には至りませんでした。しかし、2019年にKANNO抗原を担う分子とその原因遺伝子が同定され、KANNOは日本から初めて報告された新たな血液型システムとしてISBT(国際輸血学会)で認定されることになりました。ここでは、新たな血液型システムであるKANNO血液型の(はてな?)についてシェアしたいと思います。
当時、未同定の高頻度抗原に対する抗体と考えられていた抗KANNOは、その後、日本各地で同様の性質を持つ抗体が検出されるようになりました。2000年以降になり、KANNO抗原陰性と判明している赤血球(KANNO-)と抗KANNOを用いて、過去に検出された未同定の高頻度抗原に対する抗体について再度精査を行ったところ、過去に抗JMH-likeと同定されていた抗体は抗KANNOであることが分かりました(JMH-likeと考えられていた抗原はKANNO抗原であった)。その後、数種類の標準となるKANNO抗原陰性赤血球と抗KANNOを基に抗KANNOが同定されるようになりました。そして、抗KANNOは、抗Jraや抗JMHに次いで多く検出される抗体であることが分かってきました。現在、抗KANNOを用いたKANNO陰性の抗原頻度は、0.44%と推定されています。
抗KANNOの血清学的な特徴を整理すると、①抗KANNOは妊娠又は輸血によって産生される同種抗体であること、②抗KANNOは妊婦から多く検出されるが、妊娠後期には抗体価が低下する傾向があること、③抗KANNO保有者へKANNO抗原陽性血液の輸血を行った例においても溶血性輸血副作用報告がないこと、④KANNO抗原は蛋白分解酵素で抗原が破壊されるが、DTT及びAETなどでは抗原が破壊されないこと(JMH抗原との鑑別点)、⑤抗KANNOはHTLA(High Titer Low Avidity)の性質を示すこと、⑥抗体価はさほど高い検体は検出されず、せいぜい32倍~64倍程度(間接抗グロブリン試験)が多いこと、⑦劣性遺伝形質であること、⑧これまで海外からの報告例がないことなどがポイントになります。[SL.1、2]に抗KANNOの血清学的な特徴を示します。
2019年時点で、ISBTの血液型リストに登録されている血液型システムは36システムが認定されています。新たな抗原が新たな血液型システムとして国際認定されるためには、次のような基準が設けられています。(1)抗原はヒト同種抗体により特定されること。(2)抗原は遺伝すること。(3)抗原をコードする遺伝子が同定されており、遺伝子配列が決定されていること。(4)染色体上の位置が決定されていること。(5)その遺伝子は既知の血液型遺伝子又は隣接した相同体(既に分かっている血液型遺伝子)ではないこと。
従って、血液型として国際認定されるためには、かなりハードルが高いことが分かります。現在、326の血液型抗原が36のグループ(血液型システム)のいずれかに属していますが、36血液型システムの発見は全て海外から報告されたものです。既知の血液型システムに属する新たな抗原の発見は数例ありますが、血液型システムを日本から発信したことは過去にありません。KANNOが新たな血液型システムとして国際認定されたことは、非常に価値がある成果と言えます。