抗Jraは、赤血球上に存在する高頻度抗原であるJra抗原に対する抗体であり、Jr(a-)型個体が輸血又は妊娠による同種免疫で抗体を保有します。日本人から検出されている高頻度抗原に対する抗体の内訳をみると圧倒的に抗Jraの検出率が高く、検出された高頻度抗原に対する抗体の中で約6割を占めています。また、女性の保有率が高いことも以前から知られています。ここでは、抗Jra保有者はなぜ女性に多い!の(はてな?)についてシェアしたいと思います。
高頻度抗原に対する抗体を産生するのは高頻度抗原が陰性の個体です。つまり、まれな血液型の個体が輸血又は妊娠によって高頻度抗原に対する抗体(同種抗体)を産生することになります。なぜ、抗Jra保有頻度が顕著に高いのかという疑問について10年前には分かっていませんでした。日本人でのまれな血液型の検出頻度は、Fy(a-b+)型は1/100、S+s-型は1/300、Di(a+b-)型は1/500の頻度です。一方、Jr(a-)型は約1/2,000であり、妊娠によって一律に抗体が産生されるのであれば、頻度から考えると抗Fyaや抗Dibの方が圧倒的に産生の確率が高いはずです。それにも関わらず、抗Jraの検出率が高いというのは何か理由があるはずだと多くの人が考えていました。
その理由が明らかになったのは、2012年にJra抗原を担う蛋白が尿酸輸送に関与するトランスポーターであるABCG2であること(Jraの原因遺伝子はABCG2遺伝子であること)が解明されたことによります。ABCG2は胎盤の絨毛上に高発現していることが知られています。絨毛の周囲は絨毛間腔と呼ばれ母親の血液が流れ、児と母親間で代謝物質交換やガス交換が行われます。この絨毛上には様々な物質を運ぶトランスポーターが存在し、ABCG2はその中の一つです。胎盤は児の組織であり、妊娠4ヶ月(妊娠15週)には基本構造が完成すると言われています。つまり、妊娠4ヶ月から出産までの間、胎児がJra抗原陽性であれば、Jr(a-)型の母親は妊娠期間中絶えず免疫される機会を持つことになります[SL.1]。これが妊婦に抗Jraが多く検出される要因と考えられます。
そこで、抗Jra保有者268例を対象に内訳を調べてみたところ、女性が252(94%)、男性が16(6%)と圧倒的に女性から検出されていました。なお、男性はすべて輸血歴がありました。女性252例中の207例(82%)は妊娠歴が確認されています。また、207例中29例(14%)は初回妊娠であることが分かりました。これまでの常識では赤血球抗原に対する抗体は、出産時に児血液が母胎に混入することによる免疫によって抗体産生が促されると考えられてきましたが、抗Jraは初回妊婦(第一子目)からでも抗体を保有するということです。
初回妊娠、妊娠2回目、妊娠3回以上について、26例の妊婦について妊娠36週前後の抗体価を調べてみると、初回妊娠においても60分加温-間接抗グロブリン試験で64~256倍程度の抗体を保有していることが分かりました。複数回の妊婦の方が若干抗体価は高い傾向でした[SL.2]。また、ABO以外の血液型母児不適合妊娠の場合、妊娠後期に抗体価が変動(上昇)する傾向がありますが、抗Jra保有妊婦の場合は一部の例を除き妊娠中期と出産直前の抗体価は殆ど変わりませんでした。
被検者が日本人女性で、交差適合試験や不規則抗体同定用パネル赤血球と全て反応(自己対照赤血球は陰性)し、妊娠歴があり凝集強度は比較的脆い凝集を呈するというロジックの際には、まずは抗Jraを疑うべきということになります。