血液型検査のサポートBlog

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#031:自己抗体の血液型特異性の(はてな?)

 温式の抗赤血球自己抗体(以下、自己抗体)の殆どは、自己赤血球を含む全ての赤血球と反応し、その殆どは赤血球膜蛋白(Rh蛋白、Band3、GPAなど)を認識するpan-reactiveな性質(血液型特異性のない性質)を示す自己抗体です。しかし、時々Rh抗原(D,C,E,c,e)に対する特異性を示す自己抗体が混在する場合もあります。ここでは、自己抗体の血液型特異性の(はてな?)についてシェアしたいと思います。

  自己抗体の血液型特異性について調べる場合には、血液型が既知の数種類の赤血球沈渣を用いて吸着操作を行い、吸着後上清とパネル赤血球との反応性から特異性を同定します。同種抗体とは異なり、自己抗体の特異性は、自分の赤血球上に存在する抗原に対して特異性を示す抗体です。例えば、R1R1(D+C+E-c+e+)型個体であれば、抗D、抗C、抗eなどの血液型特異性のある自己抗体を保有する可能性があり、R2R2(D+C-E+c+e-)型の場合は、抗D、抗E、抗cなどの自己抗体を保有する可能性があります(単一の場合もあれば、複数の場合もある)。また、血液型特異性を示す自己抗体のみが単一抗体で存在する例は少なく(殆ど無い)、pan-reactiveな性質(血液型特異性のない性質)の自己抗体に混在しています。殆どの検体では、pan-reactiveな自己抗体の方が抗体価は高いため、血液型特異性を示す自己抗体の存在はマスクされています。従って、多くの場合は吸着操作によって証明されます。

 吸着操作を行う場合、自己赤血球を用いた吸着操作では自己抗体の特異性は分かりません。上記のように、血液型特異性を示す自己抗体は、自己赤血球の抗原が陽性であるため、pan-reactiveな自己抗体とともに全て吸着されます。自己抗体に混在した同種抗体を検出する目的であれば自己赤血球を用いた吸着は有用ですが、自己抗体の血液型特異性を確認する場合は、血液型が既知の同種赤血球(R1R1、R2R2、rrなど)が必要となります。

 検討として、392例の自己抗体(解離液)を用いて、R1R1型、R2R2型、rr型赤血球沈渣で別々に吸着操作を行い、吸着後上清とパネル赤血球との反応から自己抗体の血液型特異性について調べました。その結果、156例(40%)から血液型特異性を示す自己抗体が同定されました。特異性の内訳は、抗D自己抗体を含有する割合は32%(50例/156例)、抗C and/or 抗e自己抗体は23%(36例/156例)、抗E and/or 抗c自己抗体が37%(57例/156例)でした。いずれも吸着前はパネル赤血球と4+のため、特異性は確認できません。吸着操作後の上清で特異性が確認されます。つまり、pan-reactiveな自己抗体が圧倒的に多く、その陰に特異性のある自己抗体が存在しているのが通常のパターンとなります。

 一方、吸着操作を行なわない血漿(血清)又は赤血球解離液を適度に希釈し、パネル赤血球の反応を観察した際、例えば、一見抗e様の特異性の反応パターンがみられることがあります。つまり、e+型赤血球とは3+であるのに対し、e-型赤血球では1+程度を示し、反応性に強弱が認められるケースです。これらの特異性を確認するため、e+型赤血球及びe-型赤血球の2種類の赤血球沈渣で別々に吸着操作を行い、吸着後上清とパネル赤血球の反応を観察すると、すべて陰性となる場合があります。これは、Mimicking抗体と呼ばれるもので、本質的には抗nl(Rh蛋白に対する特異性のない自己抗体)の一部と考えられています(抗nlについては、#030を参照ください)。Mimickingとは、「まねている、擬態」という意味であり、抗eのように振る舞っている抗体という意味になります。上述した吸着後上清から確認される自己抗体をrealな特異性を示す自己抗体に対し、抗原が陰性の赤血球においても吸着される自己抗体をMimicking抗体と呼びます。本質的には自己抗体の一種です。おそらく、Rh蛋白に対する血液型特異性のない自己抗体(抗nl)が、D、C、E、c、e抗原エピトープの近傍を自己抗原として認識することで、相対的に特異性があるように見えてくる抗体と考えられます。

 

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