血液型検査のサポートBlog

血液型検査(輸血検査)で生じる悩みや疑問(はてな?)をサポートする医療従事者向けのBlogです。

#030:pan-reactiveな自己抗体の(はてな?)

 通常検出される殆どの温式抗赤血球自己抗体(以下、自己抗体)は、主要な血液型抗原に関係なく検査したすべての赤血球と陽性反応を示すため、pan-reactiveな自己抗体(または血液型特異性のない自己抗体)と呼ばれています。しかし、まれな表現型赤血球を用いて詳細に検査すると、赤血球上の主要な蛋白(Rh蛋白、Band3、GPAなど)が自己抗原になっています。ここでは、pan-reactiveな自己抗体の(はてな?)についてシェアしたいと思います。

 通常、自己抗体は自己赤血球を含む全ての赤血球を一様に凝集するため、不規則抗体同定を困難にし、時には輸血遅延の原因にもなります。自己免疫性溶血性貧血(以下、AIHA:autoimmune hemolytic anemia)とは、自己抗体によって感作された赤血球が体内で破壊され極度の貧血に陥る病態です。日常検査で遭遇する多くの自己抗体は、検査上だけの問題であることが多く、自己抗体保有者の全てが溶血症状を来すということではありません。また、自己免疫性疾患の患者さんだけが自己抗体を保有するわけではなく、様々な病態の患者さん(高血圧、糖尿病、がん、血液疾患、腎不全、頻回輸血者等)が自己抗体を保有し、自己抗体の強さも千差万別です。ここでいう自己抗体とは、主に37℃相からの間接抗グロブリン試験で反応するIgG性の抗体であり、寒冷凝集素病などでみられる低温反応性(一部は37℃まで反応がある)のIgM性自己抗体とは異なります。従って、殆どは間接抗グロブリン試験で検出されます(一部は、酵素法でも検出されます)。また、血漿(血清)中に自己抗体が存在するため、当然のことながら自己赤血球と反応し結合するため、直接抗グロブリン試験(以下、DAT)も陽性となります。通常はDAT陽性で血清中にブロードに反応する抗体が検出されることで自己抗体の存在に気が付くことが多いはずです。

 殆どの自己抗体は自己赤血球を含む全ての赤血球を一様に凝集するため、赤血球膜成分に対する抗体であることはかなり前から想定されていました。1990年代には海外の研究において、自己抗体が認識する抗原は、赤血球上のRh蛋白、Band3蛋白、GPA(グリコフォリンA)等であることが報告されています。Rh蛋白、Band3蛋白、GPAなどの蛋白は、全てのヒト赤血球上に存在する主要蛋白であるため、全ての赤血球と凝集するというのも納得できるところです。

しかし、それぞれの蛋白に対する自己抗体がどの程度の割合で存在するかを確かめるため、実験的に自己抗体価が高い36例の自己抗体と、D- -型、Rhnull型、En(a-)型のまれな表現型赤血球と酵素処理赤血球を用いて検討しました。その結果、61%がBand 3蛋白、19%がBand 3+Rh蛋白、17%がRh蛋白、3%がGPAに対する自己抗体と推測されました[図1,2]。6割はBand3蛋白に対する抗体であり、Band蛋白上にはDiego血液型が存在しています。赤血球上の抗原量が多いため、自己抗体の反応は比較的強固な反応態度を示します(抗Dibの反応態度と類似している)。

 自己抗体は、Rh表現型の異なる赤血球との反応性から、抗nl、抗pdl、抗dlという分類を行う場合があります。対応する抗原が存在するわけではないことに注意してください。抗○○は、あくまで分類上の表記です。

抗dl →Rhnull、D - -と反応する=Band3に対する自己抗体

抗nl →Rh蛋白に対する自己抗体(Rhnull型、D - -型とは反応しない)

抗pdl →抗nlと類似するが、Rhnullとは反応しない自己抗体

 GPAはMN血液型が存在する蛋白であり酵素処理で破壊されます。従って、自己抗体保有血漿(血清)と酵素処理血球との反応が陰性の場合はGPAに対するpan-reactiveな自己抗体の可能性が高いということになります(GPAを認識する単独の自己抗体はレアです)。一方、Rh蛋白やBnad3に対する自己抗体は、酵素処理血球で反応が増強されるため、多くの自己抗体で酵素法でも陽性となるのはこのためです。今回のような詳細な検査は日常の検査では行いません。D- -型、Rhnull型、En(a-)型赤血球はまれな赤血球であることから、あくまで検討的に実施したということです。通常は、Rhの異なる表現型(R1R1、R2R2、rrなど)で全て吸着される抗体であれば、pan-reactiveな自己抗体(または血液型特異性のない自己抗体)と判定します。

血液型特異性の血液型特異性については、次の記事でシェアします。

 

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