血液型検査のサポートBlog

血液型検査(輸血検査)で生じる悩みや疑問(はてな?)をサポートする医療従事者向けのBlogです。

#032:自己抗体に混在した同種抗体の検出の(はてな?)

 自己抗体を保有した血漿(血清)の反応は、通常使用した全ての赤血球と陽性反応を示すため、同種抗体が混在しても簡単には見極めができません。抗体価の低い(反応が弱い)自己抗体+抗体価の高い(反応が強い)同種抗体の混在であれば、その反応強度からある程度、特異性のある抗体(同種抗体)の推定は可能ですが、自己抗体の反応が3+以上になると難しくなります。ここでは、自己抗体に混在した同種抗体の検出の(はてな?)についてシェアしたいと思います。

  通常、不規則抗体同定用パネル赤血球や交差適合試験において、自己対照赤血球を含む全ての赤血球と3+以上の凝集が観察された場合、多くの人は自己抗体の存在を疑います。次にやることは、直接抗グロブリン試験を行い、2+~3+の凝集であれば、やはり自己抗体による反応の可能性が高いと推測していると思います。輸血上、生体内溶血所見がなければ、自己抗体は検査上だけの問題だけであり、輸血した赤血球を急激に破壊することはありませんが、自己抗体に隠れた同種抗体を見逃すことは避けなければなりません。そのため、自己抗体を以下に示すいずれかの方法で吸着除去し、吸着後上清とパネル赤血球との反応から同種抗体の有無を調べる必要があります。

自己赤血球で吸着操作を行う・・・直近3ヶ月以内に輸血歴がなければ自己赤血球で自己抗体の吸着が可能です。仮に同種抗体が混在していても、自己赤血球の対応抗原は陰性であるため、吸着されずに吸着上清に残ります。また、pan-reactiveな自己抗体以外に血液型特異性を示す自己抗体が混在していても、両方とも自己抗体なので自己赤血球で吸着除去されます。具体的な例で示すと、例えば、被検者の血液型がR1R1(D+C+E-c-e+)型で、同種抗体として抗Eを保有し、自己抗体としてpan-reactiveな自己抗体+抗e自己抗体を保有していたと仮定します。自己赤血球(D+C+E-c-e+)で吸着した場合には、pan-reactiveな自己抗体+抗e自己抗体ともに自己赤血球に吸着されますので、その吸着上清には、抗Eの特異性のみが残ります。

同種赤血球で吸着操作を行う・・・直近に輸血歴がある場合は、既存の同種抗体又は新たに産生された同種抗体が、少し前に輸血した赤血球に結合(対応抗原が陽性だった場合)するため、自己抗体の吸着とともに同種抗体も吸着除去されてしまう可能性があります。そのため、血液型が既知の数種類の赤血球を用いて別々に吸着操作を行い、吸着後上清の反応から特異性を決定します。通常、吸着にはR1R1、R2R2、rr型赤血球の3種類を使用し、3種類の赤血球の中にはJk(a+b-)とJk(a-b+)を含み、その他にDi(a-)、Fy(b-)、S-を含む組み合わせがベストです。このことで自己抗体を吸着させた吸着上清から主な血液型抗原に対する抗体を検出できます。pan-reactiveな自己抗体は3種類のいずれの赤血球でも吸着除去されます。血液型特異性を示す自己抗体が混在する場合は、抗原が陰性の赤血球の吸着上清に残ります。例えば抗e自己抗体の場合は、R1R1及びrr型赤血球では吸着除去され、R2R2型赤血球の吸着上清から抗eの特異性が確認されます。従って、同種抗体の抗Eは、R1R1とrr型の吸着上清で特異性が確認され、抗e自己抗体はR2R2型の吸着上清で特異性が確認されます。同種赤血球を用いて吸着をする際には、同種抗体の特異性とともに特異性のある自己抗体も吸着上清に出てくるため非常に複雑になります。何が吸着されて、何が吸着上清に残る!というロジックを予め予想しないと迷路にはまってしまいます。

例えば、吸着上清から、抗Eと抗eの特異性が出た場合、どちらが同種抗体で、どちらが自己抗体なのかの判断は、被検者の血液型に基づいて解釈する必要があります。従って、輸血前に被検者本来の血液型を調べておくことが重要です。同種赤血球を輸血した場合は、血清学(特異抗体)で血液型を確定できないため、少量でも輸血前に血液を確保することがポイントになります。また、同種抗体の産生は、妊娠及び輸血歴の有無で推測ができますので、被検者情報は輸血検査においては欠かせません。

 

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