血液型検査のサポートBlog

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#024:partial Dの(はてな?)

 RhDの中には、抗D試薬との反応が通常のD陽性よりも弱い凝集を呈するweak Dの他に、partial Dと呼ばれるD亜型が存在します。partial DはRhDプリペプチドの膜表面のアミノ酸置換によって一部のDエピトープを欠いているため、一部のモノクローナル抗体とは反応しません。ここでは、partial Dの(はてな?)についてシェアしたいと思います。

  partial Dの多くは、通常の検査でRhD陽性と判定され、RhD陽性の血液を輸血した後、抗Dを産生したことが発見のきっかけになっています。一方、weak DはD抗原量が少ないだけで、すべてのDエピトープを有すると考えられていましたが、最近ではweak Dの中にもpartial Dの特徴を持つものがあり、partial weak Dなどと呼ばれています。

 Tippettらは、抗Dを保有するD陽性者(partial D)個体の赤血球と抗体を用いて、カテゴリー分けを行い、当初I~VIのカテゴリーに分類しました。その後、VIIが追加されました(Iは廃止されII~VIIとなった)。その後、抗Dモノクローナル抗体の作製技術の進歩に伴い、作製された多種類のモノクローナル抗Dの反応性を世界的に評価し合いました。その結果、RhD抗原は少なくとも9エピトープ(エピトープ:epitopeとは、抗体が反応する抗原のこと)存在することが提案され、現在では30エピトープが確認されています。しかし、基本は9エピトープであり、それを細分化して30エピトープとなっています(例えば、ep5は5.1、5.2、5.3など)。また、Tippettらが用いたヒト血清(抗D)が入手できないことから、現在ではpartial Dの分類は、抗Dモノクローナル抗体に基づいて分類され、表記方法も基本的に3文字(DXX)で表記するようになりました。

 partial Dの分子生物学的な知見も徐々に分かってきて、下図に示すようにRHD遺伝子にRHCE遺伝子が置き換わったハイブリッド遺伝子であることが解明されています。エキソン単位で置き換わるタイプ(カテゴリーIV、VIなど)やRHD遺伝子のエキソン5の一部又は全体が置き換わる等、様々なバリエーションのあるpartial DVaなどがあります。血清学検査で多種類の抗D試薬を用いても殆どの試薬と陽性となるため、判定が難しいpartial DVaはこのような背景があるためです(weak Dとの判別も難しい)。カテゴリーVIは、RHD遺伝子のエキソンがRHCE遺伝子に置き換わっている範囲が多いため、膜表面のDエピトープを一番多く欠いていることになります。そのため、多くのモノクローナル抗Dとは反応しない特徴があります。日本人で最も多く検出されるのはpartial DVaですが、その頻度は約10万に1人程度です。また、partial DVIは白人に多く、1万あたり1.5人程度を推定されています。一方、日本人ではpartial DVIは検出頻度が低く、数十万から100万に1人程度と推定されています。

 partial Dはweak Dとは異なり、多くの例ではD抗原がweak Dほど減少しません。現在多く使用されているモノクローナル抗D(IgM)+ヒト由来抗D(IgG)のブレンドタイプで間接抗グロブリン試験(IAT)を実施しても、IATでは3+~4+を示します。抗Dを用いた被凝集価も32倍~128倍が多く、典型的なweak Dほど弱くなりません。従って、partial Dと判定するには、多種類のモノクローナル抗Dとの反応性を観察しなければ決定できないということになります。また、partial Dを判定する際にモノクローナル抗Dを用いますが、感度をあげるために赤血球側を酵素処理するのは高次構造に変化をもたらす可能性があり、通常は酵素処理しない赤血球との反応で判定することになっています。複数例の抗Dとの反応を観察しても、典型的partial D以外では判定が難しい場合も多く、一部は遺伝子解析を行わないと最終的に決定出来ない例もあります。

 

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