血液型検査のサポートBlog

血液型検査(輸血検査)で生じる悩みや疑問(はてな?)をサポートする医療従事者向けのBlogです。

#022:D- -と抗Rh17の(はてな?)

 

 D- -(ディー・ダッシュ・ダッシュ)表現型は、抗Dとは反応するが、抗C、抗c、抗E、抗eとは反応しないRh表現型です。D- -型に発現しているRh抗原は、D、G、Rh29のみと考えられています。D- -型個体はRh血液型の高頻度抗原であるRH17抗原を欠くため、妊娠又は輸血等で同種抗体の抗Rh17を産生します。ここでは、D- -型と抗Rh17についてシェアしたいと思います。

  D- -型の特徴は、D抗原が通常よりも発現量が多く、IgG型抗D(通常は間接抗グロブリン試験で陽性)との反応においても食塩液法で陽性となる特徴があります。また、見かけ上の表現型がR1R1型(D+C+c-E-e+)である個体において、ハプロタイプにD- -を保有している個体(D- -/DCe)は、詳細な検査(フローサイトメトリーによるD抗原解析)を実施するとD抗原は通常のR1R1型のD抗原よりも発現量が多いことがわかります。

 D- -型個体は、通常両親からまれな遺伝子(D- -)を受け継ぎ、ホモ接合型(D- -/D- -)になっているため、血族結婚であることが多く、日本人の頻度は10万に1人程度と非常にまれな血液型です。妊娠や輸血によって、抗Rh17(高頻度抗原に対する抗体)を保有しやすいのが特徴です。抗Rh17は免疫同種抗体であり、D- -型個体が自然抗体として抗Rh17を保有している例はありません。従って、妊娠又は輸血歴が無ければ抗Rh17を保有することもないため、血液型検査でRh表現型(C,E,c,e)を調べなければ存在に気が付かないこともあります。Rh17は非常に臨床的意義のある抗体であるため、保有者への輸血は、同型のD- -が選択されます。また新生児溶血性疾患の原因抗体ともなるため、妊婦が保有した際には、定期的に母親抗体価の観察を行い、必要に応じて帝王切開も考慮しなければなりません。父親が通常の表現型(R1R1、R2R2、R1R2であれば)児が母親と同じD- -型である確率は低く、通常は父親と母親から遺伝子を受け継ぎため、R1R1(DCe/D- -)、R2R2(D- -/DcE)となり、Rh17抗原も陽性です。またRh抗原は出生時には成人と同レベルの抗原量を有しているため、母親から移行した抗体(抗Rh17)は児の赤血球に結合(感作)し、児体内で児赤血球を破壊します(胎児・新生児溶血性疾患)。

 日本人から検出されたD- -型の遺伝子タイプは、---/RHD(1)-RHCE(2-7)-RHD(8-10)のように一方のハプロタイプを欠損し、もう一方がRHDRHCE遺伝子のハイブリッドタイプや、D--/---(RHCE遺伝子の欠損)タイプが報告されています。

 ここで、妊婦が抗Rh17を保有した一例を紹介します。被検者は過去に妊娠歴のある女性で妊娠中でした。自己対照赤血球を除く全てのパネル赤血球を凝集し、Sal法は1+、Bro法、LISS-IAT、PEG-IAT及び60分加温-IATは全て4+の反応でした。LISS-IATによる抗体価は、R1R1、R2R2、rr型赤血球ともに1,024倍でした。食塩液法で弱く反応しBro法、IATで4+になるような抗体といえば、Ko型個体が産生する抗Ku、D- -型個体が産生する抗Rh17、Di(b-)が保有する抗Dibをまず疑うべきです。Sal法が4+であれば、p型又はPK型個体が産生する抗Tja(抗PP1PK)や抗P、Bombay型が保有する抗H、i型が保有する抗Iなどを疑うべきです。被検者のRh表現型を検査すれば、D- -型であることは直ぐに分かります、また、Rh17抗原も陰性であれば、被検者の表現型はD- -型であり、血清中の抗体は抗Rh17の可能性が高いと推測できます。出産後、児の検査(臍帯血液)を実施したところ、児はR2R2型(D- -/DcEが想定される)で、直接抗グロブリン試験は強陽性(4+)、児の赤血球解離液から抗Rh17の特異性が確認されました。抗体価はR1R1型赤血球と64倍、R2R2型と256倍であり、抗Rh17以外の抗体の混在が示唆されました。

 そこで、母親とRh以外の主な血液型(Duffy、Kidd、Diego、MNS等)が同じ赤血球沈渣で高頻度抗原に対する抗体である抗Rh17のみを吸着除去し、吸着上清から混在する主要抗原に対する同種抗体の有無を調べた結果、抗E、抗cの混在が確認されました。臍帯血清中からも同様の反応が観察されました。このことから、母親血清中には抗Rh17、抗E、抗cが存在していたことが判明しました。児が輸血を必要とした際にはD- -型赤血液を使用することから、例え抗E、抗cを保有していても問題ありませんが、抗Rh系以外の抗体の混在(例えば抗Dia、抗Jkaなど)した際には、D- -でDi(a-)、D- -でJk(a-)の血液が必要になるため、抗体同定検査は可能な限り早期に実施し、適切な血液の準備をすることが重要です。母親が保有する抗体は、母親の血液型を調べるとともに配偶者(父)の血液型を調べることで子供の血液型を想定できる=産生される可能性のある抗体を早い段階で推測できることを知っておく必要があります(血液型は遺伝形質であることを活用する)。

 また、D- -型個体では、抗Rh17の他にRh因子に対する抗体(抗C、抗E、抗c、抗e)を保有する場合がありますが、判定の際には注意が必要です。それは、抗Rh17は児がR1R1型の場合はR1R1型赤血球と若干強く反応し、R2R2型の場合はR2R2型赤血球と若干強く反応する性質があるためです(免疫された表現型の赤血球と強く反応する性質がある)。通常は凝集の強弱から複数の抗体保有を疑うのが通常の考え方ですが、抗Rh17に関しては少し異なります。血液型が既知(R1R1、R2R2、rr型赤血球)で吸着後の上清が3+以上の反応の場合はRh系の単独抗体の混在と考えて問題ありませんが、1+程度の凝集では判断が難しくなります。なお、Rh系以外の抗体の場合は吸着上清の反応が1+以上あれば、抗体ありと判定しても問題ありません。