RhD血液型は、抗Dとの反応性からD陽性、D陰性に大別されます。Del(DEL)型とは、D陰性赤血球を抗D試薬で吸着解離試験した際に解離液中に抗Dの特異性が確認される表現型(赤血球上に微量のD抗原が存在)です。Del(DEL)型は日常検査(D確認試験)ではD陰性と判定されています。「el」とはelution(解離)の頭文字に由来します。ここでは、Del(DEL)型の(はてな?)についてシェアしたいと思います。
RhD陰性の分子メカニズムの多くは白人にみられるRHD遺伝子の欠損型です。しかし、日本をはじめとする中国、韓国、台湾など東アジア地域ではRHDとRHCE遺伝子のハイブリット、RHD遺伝子のスプライシング部位の変異、点変異などによってRHD遺伝子を有しているRhD陰性が存在することが知られています。また、その一部は抗D試薬を用いた吸着解離試験によって赤血球上のD抗原が証明されるDel(DEL)型を生じる原因となっています。
Del(DEL)型を生じるメカニズムとして、40種類以上のRHD*DELアリルが報告されていますが、日本人においては、Del(DEL)型の97~98%はRHD遺伝子の1227番塩基の変異に由来します。RHD遺伝子は10個のエキソンから成り、通常のD陽性では、D遺伝子のエキソン9の1227番塩基はG(グアニン)となっていますが、この塩基がA(アデニン)へ変異している個体では、イントロン9のスプライシング異常を起こし、その結果、D遺伝子のエキソン9がスキップするため、不完全なD蛋白を生じ結果的にDel(DEL)型になると考えられています[図.1]。
これまでD陰性者2,700例余りについてRHD遺伝子の有無を調べた結果、378例(約14%)にRHD遺伝子が検出されました。この378例全てをIgG抗D試薬(ポリクローナル)で吸着解離試験を実施したところ、240例(240/378)の解離液中に抗Dの特異性が確認されました。つまり、240例(8.7%:240/2,700)がDel(DEL)型ということになります。これらのRh表現型はすべてC抗原が陽性でした。また、Del(DEL)型に対応する遺伝子として、97%が1227番塩基のグアニンからアデニンへの変異であり、日本人のDel(DEL)型から高頻度に検出されるアリルと考えられました[図.2]。RHD遺伝子が検出されたものの、Del(DEL)型ではなかった138例は、RHD遺伝子の一部(エキソン10)は存在するものの、他のエキソンの一部が存在しないため、完全なD蛋白とはならず、結果としてD陰性となったと考えられます。Del(DEL)型は現在のところ、供血者及び受血者においてRhD陰性として扱われています。
RhD陰性者にDel(DEL)型赤血球を輸血しても、Del(DEL)型のD抗原量が少ないために抗Dは産生しないと考えられていました。しかし、過去に抗Dを保有していた個体ではDel(DEL)型赤血球の輸血によって二次免疫応答し抗Dの上昇がみられたという報告があります(赤血球を破壊する程ではない)。そのため、抗D保有者や妊娠可能な女性にはDel(DEL)型の輸血を避ける意見もあります。その場合、これまでの報告からDel(DEL)型はRhC抗原が陽性であることから、D-,C-を選択することでDel(DEL)型の輸血は回避することができます。また、D陰性の場合、7~8割はC抗原が陰性のため、D-,C-を選択することは難しいことではありません。一方、受血者がDel(DEL)型の場合は、微量ながらD抗原はありますので抗体を産生することはありません。妊婦がDel(DEL)型で児がRhD陽性であっても、これまで1例も抗D産生例がないことから、受血者がDel(DEL)型の場合は、とくに問題視する必要がないことが示唆されています。・・・といっても現在、日本では抗Dを用いた間接抗グロブリン試験(D陰性確認試験)で陰性であれば、RhD陰性と判定しDel(DEL)型までの確認は実施していませんので、Del(DEL)型であること自体気が付かないと思いますが。。。
最後に、抗Dを用いた吸着解離試験において注意点があります。抗D試薬にはIgM抗Dが含まれる試薬(IgM+IgGブレンド試薬)があり、これらは非特異反応が出やすいためD抗原を確認するための吸着解離試験には使用出来ません(D陰性赤血球から抗Dの特異性が出る)。適度に希釈した場合には非特異反応は回避できますが、陽性と陰性対照は必要です。また、D+/D-キメラの場合は、D+の割合が約7%程度以上含まれていないと通常実施している検査(間接抗グロブリン試験)ではRhD陰性と判定されます。その検体を抗D試薬で吸着解離試験すると、勿論抗Dが解離されてきます。従って、D+/D-キメラをDel(DEL)型と誤判定してしまいます。とくにRhC抗原が陰性検体でこのような反応を示す検体については、キメラを疑った検査を実施するか、遺伝子検査等も併用し判定する必要があります。