血液型検査のサポートBlog

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#020:抗Gの同定法の(はてな?)

 Rh血液型システムには現在55抗原が確認されています。そのうち、G抗原(Rh12)は、D+又はC+の赤血球に存在する抗原です。抗Gを含む血漿(血清)と不規則抗体同定用パネル赤血球の反応では抗D+抗Cの反応パターンが観察されるのが特徴です。ここでは、抗Gの同定法の(はてな?)についてシェアしたいと思います。

  G抗原の発現にはRhDとRhCe及びRhCE蛋白に共通する103番目のアミノ酸(セリン:Ser)が重要であり、この103番目のアミノ酸がSerからProに置換したpartial D Ⅲbの赤血球はD+であってもG抗原が陰性となります。また、RHD遺伝子のエキソン2領域にRHCE遺伝子が入り込むハイブリッド遺伝子を有する個体の場合も103番目のSerが別のアミノ酸に置き換わるためG抗原が陰性となります。従って、通常、G抗原は上記の稀な表現型を除くD+赤血球とD-の場合はC抗原が陽性の赤血球にG抗原が存在することになります。因みに、RhD陰性でC抗原が陽性の表現型は日本人ではD-の2割程度存在します[r’r’(D-C+E-c-e+)、r’r(D-C+c+E-e+)、r’r”(D-C+E+c+e+)]。

 輸血や妊娠等において抗Gを産生している個体は、D陰性でかつC抗原が陰性の表現型の個体[rr(D-C-E-c+e+)、r”r”(D-C-E+c+e-)、r”r(D-C-E+c+e+)]が、抗Dや抗Cとともに抗Gを産生しています。

 パネル赤血球との反応において抗D+抗Cのパターンが観察されるケースでは、単純に抗D+抗Cの場合もありますが、抗D+抗C+抗G、抗D+抗G、抗C+抗G、抗G単独の場合も見かけ上は抗D+抗Cの反応パターンが観察されるため、抗Gの鑑別が必要となります。注意したいのは、抗GはRh蛋白の複合抗原に対する抗体ではなく、抗Gの特性によって見かけ上、抗D+抗Cパターンになる(D+又はC+赤血球がG+のため)ことを理解して欲しいと思います。つまり、抗f(抗ce)、抗Ce、抗cEなどの複合抗原に対する抗体とは異なるということです。

 抗Gの同定には、少なくとも2回の吸着操作が必要となります。仮に、3つの抗体(抗D+抗C+抗G)が存在した例で説明します。同定手順の一例としては、【手順1】r’r(D-C+E-c+e+:G+)型赤血球沈渣で被検者血漿(血清)を吸着します。r’r型はC抗原が陽性であるため、G抗原も陽性となります。この赤血球を用いて吸着した場合、吸着上清には抗Dが検出されます。一方、吸着血球には抗Cと抗Gが吸着されていることになります。【手順2】吸着させた赤血球を解離し、解離液を作製します。この解離液中には吸着した抗Cと抗Gが含まれていることになります。【手順3】次にこの解離液をR2R2(D+C-E+c+e-:G+)型赤血球沈渣で吸着します。R2R2(D+C-E+c+e-:G+)型赤血球は、C-、G+であるため吸着上清で抗Cの存在を確認します。吸着赤血球には抗Gが吸着されていることになります。【手順4】吸着に用いたR2R2(D+C-E+c+e-:G+)型赤血球沈渣を解離し解離液を作製します。【手順5】解離液とパネル赤血球との反応を観察します。既に抗D及び抗Cは前の操作で除去されているにもかかわらず、パネル赤血球との反応において抗D+抗Cのパターンが観察された場合、これが抗Gとなります。

 但し、この操作を実施する場合は、事前準備としてRh系抗体以外に混在する抗体を否定又は特異性を決定しておくことが重要です。また、事前にR1R1型、R2R2型、r'r型などの表現型赤血球を用いて抗体価を測定し、3つの抗体のうち含まれる可能性のある抗体と、一番強い抗体を推測しておく必要があります。最初の吸着は、抗体価が低い抗体を吸着させるのが鉄則です(完全に吸着させるため)。通常は抗Dが最も抗体価が高いことが多いため、最初の吸着操作はD-のr'r型赤血球を用いて、吸着上清に抗Dを残す(抗Dは吸着させない)方法を用いますが、仮に顕著に抗Cが強いと分かっている場合は、R2R2型(D+C-)で吸着を開始する場合もあります。また、各吸着上清や解離液の特異性を確認する際には、必ずD+、C-の赤血球、D-、C+の赤血球、D-、C-の赤血球を用いて(可能な限りRh抗原はホモ接合型赤血球が望ましい)、吸着しようと思っていた目的の抗体がきちんと吸着されたこと、吸着上清として残した抗D又は抗Cの特異性を確認することがポイントになります。

 抗Gは同種抗体のみならず自己抗体として検出される場合もあります。自己抗体の場合には血液型特異性のある自己抗体と一緒にほぼもれなくpan-reactive(血液型特異性のない)自己抗体が混在しているため、最初にpan-reactiveな自己抗体をrr型やr"r型、r"r"型の赤血球を用いて吸着除去してから、抗Gの確認検査に入る必要があります。自己抗体が混在した場合は、一手間増えるため複雑な操作となりますが基本的な検査の進め方は同様である。

 同種抗体の抗Gを保有した際の輸血は、D-、C-であれば、G抗原は陰性です。従って、RhD陰性でC抗原が陰性の血液(D-型では約70~80%)を選択すれば適合血は得られるため輸血に支障を来すことはありません。

 

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