血液型検査のサポートBlog

血液型検査(輸血検査)で生じる悩みや疑問(はてな?)をサポートする医療従事者向けのBlogです。

#017:低頻度抗原に対する抗体の(はてな?)

 各国の集団の中で抗原陽性の人が稀にしかいない血液型抗原を低頻度抗原といいます。その抗原の出現頻度は1%以下であり、既知の血液型システムに属する抗原と属さない抗原があります。血液型システムに属さない抗原はISBT(国際輸血学会)では700シリーズ(低頻度抗原:17抗原)として分類されています。ここでは、低頻度抗原に対する抗体の(はてな?)についてシェアしたいと思います。

 日本人から報告例のある主な低頻度抗原に対する抗体は、Rh血液型に属するCw抗原(RHCE遺伝子の点変異により生じる)に対する抗体、MNS血液型に属するMia、Vw、Mur、Hut、Hil、Mut、Yak(Miltenberger抗原群に対する抗体)、Sta、Or、SAT抗原に対する抗体(Staは検出頻度が4%程度)、Kell血液型に属するK、Kpa、Kpc、Jsa、Ula、KYO抗原に対する抗体、Diego血液型に属するWra(Wright)、Swa(Swann)、NFLD(Newfoundland)抗原に対する抗体、Sianna血液型のSc2に対する抗体、Gerbich血液型のLs、ISに対する抗体などがあります。その他にKg(Katagiri)や血液型システムや低頻度抗原に分類されていないOsaやTd抗原に対する抗体の報告例もあります。

 これら低頻度抗原に対する抗体は、通常実施している不規則抗体スクリーニング検査では陰性(使用しているパネル赤血球に通常低頻度抗原陽性赤血球が含まれていないため)であり、交差適合試験(主試験)で1本のみ陽性であることがきっかけで検出されることが多いのが特徴です。これらの抗体の多くは自然抗体である場合が多く、特にRh血液型のCwやKell血液型のK、Kpa、Jsaは日本人ではほぼ抗原が陰性であることから、妊娠や輸血等による同種免疫で産生された抗体というよりは、むしろ自然抗体として保有している例が殆どです。勿論、不規則抗体検査の際に使用したパネル赤血球に低頻度抗原がまたまた含まれていた場合に検出される例もあります。K、Kpa、Miltenbeger系などの低頻度抗原に対する抗体はある特定のパネル赤血球から検出される方が多いかもしれません。抗体スクリーニング検査が陰性で、交差適合試験(主試験)を複数本実施した際、1本だけが陽性となり、その陽性になった血液は他の患者さんとは陰性の場合は、低頻度抗原に対する抗体の可能性が示唆されることになります。但し、主な血液型抗原に対する抗体を完全に否定してから低頻度抗原に対する抗体の検査に進むことは言うまでもありません。

低頻度抗原に対する抗体疑いであったが、実は別な抗体であった例・・・

  • 抗P1の例:P1抗原量は個々の赤血球で抗原量にばらつきがあるため、強い抗体であれば殆どの陽性赤血球と陽性を示しますが、弱い抗体の場合は、赤血球上のP1抗原が多い赤血球とのみ陽性となります。抗体スクリーニング赤血球のP1抗原が常に抗原量の多い血球とは限らないため、抗P1の存在には気が付かず、その後の交差適合試験でPEG-IATなどの間接抗グロブリン試験を実施した際にP1抗原量が多い赤血球とのみ弱陽性になる場合があります。この解決策は、生食法で抗体の存在を確認すること、反応が弱い抗P1では低温(4℃)で反応性を観察することで抗P1の特異性を確認出来る場合があります。
  • 抗Bgaの例:抗BgaはHLA-B7陽性個体の赤血球と反応するHLA関連抗体です。通常赤血球上にはHLA抗原が存在しませんが、一部のHLA抗原が赤血球上に存在する場合があります。HLA-B7抗原は赤血球型検査ではBga抗原と呼ばれています。赤血球上の量は個体差があるため、全てのHLA-B7個体の赤血球と反応する訳ではなく、ある一定以上の抗原量を持つ赤血球とのみ反応します。我々の調査では、赤血球上にある程度高発現しているのはHLA-B7陽性個体の中の5%程度でした。また、市販品パネル赤血球のHLA-B7又はBg+表記は必ずしも抗Bgaとの確認がされていないため、反応が陰性となることがあり注意が必要です。抗Bgaを保有した血漿(血清)がまたまたBga抗原が多い血液と交差適合試験を行った場合、低頻度抗原に対する抗体のように、その1本だけが陽性反応を示すというワケです。

 このように赤血球上の抗原量に個体差がある血液型抗原に対する抗体には注意を払う必要があります。通常の抗体が否定された場合、低頻度抗原に対する抗体を疑い検査を進めますが、低頻度抗原に対する抗体の同定作業を行う場合は、陽性になった赤血球を酵素(ficin、trypsin、α-chymotrypsin、など)や化学(DTT、AET、酸)処理を行い、その抗原の性質又は特徴から特異性の絞り込みを行うことが解決の糸口となります。つまり、酵素処理赤血球で反応が消失した場合はMN系やMiltenberger系の抗体が示唆、酸処理した赤血球と陰性になる場合は、Kell系やBgaなどに対する抗体が示唆されるということです。そのため、交差適合試験が陽性になった赤血球(セグメント)の確保や陽性となった不規則抗体同定用パネル赤血球の確保は低頻度抗原に対する抗体同定をスムーズに行う鍵となります。また、輸血をしたい場合は、低頻度抗原に対する抗体保有のため輸血出来ないということはありません。出現頻度から他の殆どの赤血球とは陰性となります。

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