血液型検査のサポートBlog

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#016:ブロメリン試薬に対する非特異反応の(はてな?)

 不規則抗体検査及び交差適合試験を実施する際には、生理食塩液法(以下、Sal法)、間接抗グロブリン試験(以下、IAT)に加えて、ブロメリン一段法が行われている場合がありますが、非特異反応を呈し輸血を躊躇する場合があります。ここではブロメリン試薬に対する非特異反応の(はてな?)についてシェアしたいと思います。

  Sal法は、抗M、抗P1、抗Lea、抗Leb、抗I、抗HIなどの低温反応性抗体の有無を確認する目的で実施されているに過ぎません(交差適合試験で行うSal法はABOミスマッチを検出するのが主たる目的)。IATは輸血上重要な臨床的意義のあるIgG性の抗体を検出する方法であり、輸血検査では必須の検査方法です。IATは反応増強剤としてLISS(低イオン強度溶液)やPEG(ポリエチレングリコール)を添加し、反応時間を短縮したLISS-IAT、PEG-IATが行われています(LISS-IAT、PEG-IATを実施していれば、Salは省略しIATのみでも良いとする考えもある)。一方、酵素法は、従来から使用されている0.5%ブロメリン溶液を添加するブロメリン一段法(以下、Bro法)、主にカラム凝集法などの自動検査機器で行われるficin二段法があります。

 LISSやPEGを添加したIATが普及する以前は、22%ウシアルブミン溶液を添加したIATや無添加60分加温のIATを行っていたため、現在のように感度が高い検査とは言えませんでした。日本人ではRh系の抗体(抗E、抗c)の検出頻度が高いため、産生初期の抗体検出や60分加温-IATで検出できないRh系の弱い抗体検出を補う意味でBro法(Rh系抗体検出には優れている)が好まれてきた歴史があります。

 現在、多くの施設では不規則抗体スクリーニング検査はSal法とLISS-IAT又はPEG-IATが採用されていますが、交差適合試験のみBro法を採用している施設もあります。そういった施設では、時々、Sal法及びPEG-IATが陰性で、Bro法のみ3+~4+の反応を呈し、輸血を躊躇する場合があります。夜間や選任ではない技師が輸血検査を実施した場合、3+の凝集を見れば交差適合試験不適と判定してしまうのは仕方がないことでしょう。

 これらの反応を呈する殆どは、ブロメリン試薬に対する非特異的な反応であり、通常「ブロメリン非特異反応」と呼ばれています。ブロメリン非特異反応は、被検者血漿(血清)+赤血球浮遊液+0.5%ブロメリン溶液を一つの試験管内で反応させた際に出現する反応です。事前に酵素(ブロメリン)処理した赤血球と血漿(血清)を加えて反応(ブロメリン二段法)させても凝集は起こりません。ブロメリン非特異反応は、一部の例外を除き自己対照赤血球との反応においても不規則抗体同定用パネル赤血球(又はスクリーニング赤血球)とも同様に凝集が観察されるのが特徴です。つまり、自己対照赤血球を含め検査した全ての赤血球試薬と凝集反応が観察され、その凝集はw+~1+の反応ではなく、通常は3+~4+のしっかりした凝集反応を呈するのが特徴です。

ブロメリン非特異反応と類似の反応を示す場合があり、鑑別が必要となるものには以下に示す例があります。

・低温反応性の抗HI、抗Iなどが存在する場合・・・Sal法(室温)の反応性を観察することが鑑別のポイントとなります。Bro法で3~4+を示すような抗I又は抗HIが存在した際には、Sal法で4+になります。

・強い連銭形成を呈する血漿(血清)の場合・・・スライドガラスで連銭形成を確認することが鑑別のポイントとなります。

・温式自己抗体を保有し、DAT(直接抗グロブリン試験)が陽性の場合・・・IATで陽性を示し、DATが陽性の場合はBro法で自己対照赤血球を含めて全ての赤血球と陽性になります。

 ブロメリン一段法は、Rh系の初期抗体の検出には有用な検査法であるのは確かです。しかし、現在LISS-IATやPEG-IATといった感度が高い方法が採用されていること、また、酵素法のみ陽性の抗体の臨床的意義が低いことから、総合的に考えて選択する必要があります。Bro非特異反応は妊娠及び輸血歴等に関係なく、健常人においても結構な頻度で出てきます。Bro非特異ということを知らない担当者や輸血検査は当番の時だけというような環境下では、交差適合試験にBro法を入れて迷って輸血を躊躇するくらいであれば、採用する意義は低いと個人的には思ってしまいます。但し、不規則抗体同定検査の際には抗体の特徴を把握するために必要であることは言うまでもありません。また、Bro法を実施している場合にBro非特異反応が考えられる場合は、受血者が抗体を保有する可能性(輸血歴、妊娠歴)があるのか、Sal法の反応はどうか、LISS-IAT又はPEG-IATは陰性か、などを考慮して不規則抗体による凝集ではないと判断できた場合に、最終的にBro非特異反応であると決定するのが解決策だと思います。

 

(補足追記)

 殆どのヒトの血漿(血清)中には、個体差がありますが抗I(抗HI)が存在します。そのため、ficin二段法では強弱はありますがほぼ陽性になります。ficin二段法を上手に活用出来るのは、高頻度抗原に対する抗体が疑われた時や酵素で壊れる主要抗原に対する抗体がある場合、未処理 vs ficin処理赤血球で間接抗グロブリン試験を行った場合です。通常のficin二段法ではIgM性の冷式自己抗体を拾ってしまうために陽性になるのが普通の反応です。ブロメリン二段法でも同様のことが起こることがありますが、試験管法で実施する場合は37℃で実施すること、ブロメリン溶液を添加することで血漿(血清)が若干希釈されるため、ficin二段法に比べて冷式自己抗体の影響が低減されます。