血液型検査のサポートBlog

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#018:不規則抗体の絞り込みの(はてな?)

 不規則抗体とは、抗A、抗B以外の赤血球上の血液型抗原に対する抗体の総称であり、妊娠又は輸血等の同種免疫によって産生される同種抗体と赤血球の刺激を受けていないにも関わらず保有する自然抗体があります。それぞれの抗体には反応性の違いがあるため、抗体の性質を上手に活用し検出及び同定(特異性の決定)をする必要があります。ここでは、不規則抗体の絞り込みの(はてな?)についてシェアしたいと思います。

  不規則抗体には、臨床的意義のある抗体とそうではない抗体があります。抗体の臨床的意義とは、その抗体が輸血した血液を体内で破壊する抗体であり、溶血性輸血副作用(HTR)や、胎児・新生児溶血性疾患(HDFN)に関与する抗体を指します。このような抗体の殆どは、同種免疫を受けて産生された抗体によるものです。但し、例外もあり、Bombay型個体が保有する抗Hやp型個体が保有する抗P又は抗PP1PK(抗Tja)は、妊娠又は輸血がない個体でも保有しています。これらは抗A及び抗Bと同様に規則抗体の様な性質を持つ臨床的意義の高い抗体です。

 現在までに赤血球上に存在する同種抗原は360抗原以上分かっていますが、そのうちの約52%の抗原は高頻度抗原(殆どのヒトが抗原陽性)、約35%が低頻度抗原(殆どのヒトが抗原陰性)であり、陽性と陰性が適度に存在する多型性を示す抗原は約13%程度です。適度に陽性と陰性が存在する場合は、ランダムに輸血すると抗原が陰性の個体に陽性の血液が輸血されて抗体が産生されることがあります。従って、日常的に検出される不規則抗体は、この多型性の抗原に対する抗体が多くを占めています。日本人で多型性を示す抗原(主要抗原と言われている抗原)は、C、E、c、e、P1、M、N、S、s、Lea、Leb、Fyb、Jka、Jkb、Dia、Xgaです。Fya、Dib、Jra、sなどの抗原は高頻度抗原であるため、高頻度抗原陰性個体(=まれな血液型個体)の人たちが抗体を保有する場合があります。

 それぞれの不規則抗体は全て同様の反応性を示す抗体であれば、同定する際迷わないのですが、困ったことに抗体には個性があります。IgM性とIgG性の違い、反応温度の違い(低温又は37℃)、補体結合性の違い、酵素(ficin等)処理による反応性の違いなど個性があります[図.1]。それに加えて抗体価の違いや赤血球の抗原量(密度)の違いがあるため、同じ特異性の抗体でも反応性は一様ではありません。従って、不規則抗体を同定する場合には、様々な条件で反応性を観察し、抗体の絞り込みを行います。

[低温で反応する抗体の絞り込み]・・・低温で反応する抗体は直接凝集反応を示す抗体であるため、IgM性の抗体が示唆されます。そして低温で反応する相手(抗原)は、糖鎖抗原であることが多いのが特徴です。その反応が検査した全ての赤血球と反応する様な抗体であれば、I抗原やH抗原に対するもの(=抗I、抗HI、抗H)などが疑われます。自己対照赤血球が陰性で、反応する赤血球に陽性と陰性がある場合は、抗M、抗N、抗P1、抗Lea、抗Lebなどを疑うことになります。また、反応した試験管に0.5%ブロメリン溶液を1滴加え10分程度放置後に遠心判定し、反応が消失すれば抗Mや抗Nの可能性が高いという絞り込みが出来ます[図.2]。抗HIはO型赤血球と強く反応する冷式自己抗体なので、O型以外であればABO同型赤血球との反応を観察するのも解決の糸口になります(抗IはABO型に関係なく一様に反応が見られます)。また、これらの抗体は本質的にはIgM性の低温反応性の抗体ですが、PEG-IATなどを実施した際には、持ち越しによって弱陽性を呈する場合があることを知っておくと良いでしょう。

[間接抗グロブリン試験で反応する抗体の絞り込み]・・・臨床的意義のある同種抗体は間接抗グロブリン試験(以下、IAT)で陽性となります。同種抗体が疑われる場合は、同様に検査した自己対照赤血球は陰性となります。自己対照赤血球が陽性で、全てのパネル赤血球と陽性の場合は抗赤血球自己抗体を疑い検査を進める必要があります。自己抗体については他の記事でシェアしますので、ここでは同種抗体について話を進めます。IATで陽性と陰性が明瞭な場合は、消去法などを活用し抗体同定を行いますが、全て一様に凝集がある場合は、消去法は役に立ちません。全て陽性になるケースは、複数の抗体が存在しているケース、高頻度抗原に対する抗体が存在するケース、数は少ないながら現在ではDARA(ダラツムマブ)投与についても考慮する必要があります。全て陽性になった際には、吸着操作等で複数の抗体を分離する方法もありますが、まずは酵素処理赤血球との反応と無添加60分加温-IATの反応を観察することで解決の糸口となります。酵素未処理、酵素処理赤血球でIATを実施した際、抗Fya、抗Fyb、抗S、抗s、抗Xga、抗JMH、抗KANNO、抗Ch/Rgなどの抗体では陰性化します。

 抗Jra、抗JMH、抗KANNO、抗Knops、抗Ch/Rgなどは日本人から検出される代表的な高頻度抗原に対する抗体で、検査したすべての赤血球と陽性となります。抗JMH、抗KANNO、抗Ch/Rgはficin処理赤血球とは陰性となります。抗Jraは反応性がやや増強し、抗Knopsは反応性がやや低下(3+→1+)しますが完全に陰性とはなりません(1+程度の反応性の抗体では勿論陰性となる)。一方、抗Dib、抗Rh17、抗Ku、抗LW、抗Pなどの抗体は反応性が増強します(これらの抗体ではブロメリン一段法やficin二段法でも凝集が観察される場合もあります)。反応が増強又は低下していることを確認する際には、未処理赤血球と2+~3+程度に希釈した被検者血漿(血清)を用いることで、反応性の変化が明瞭になります。

また、血漿(血清)中に、水溶性の型物質が存在する抗原に対する抗体では、被検者以外の同種の血漿(血清)で凝集抑制を行うことが出来ます。例えば、抗Lea、抗Lebは、血漿(血清)中に存在するLea、Leb物質によって中和されます。Ch/Rg抗原は補体成分のC4に存在する抗原であるため、同様に血漿(血清)によって凝集抑制されます。これらの反応を観察する場合は、必ず血漿(血清)と対照としてPBS又は生食を使用します。PBS又は生食を添加した方が2+以上の凝集があり、血漿(血清)を加えた方が陰性となった場合は、血漿(血清)で凝集抑制される抗体という絞り込みが出来ます。

 このように抗体同定(抗体の絞り込み)を行う際には、パネル赤血球との反応だけではなく、抗体の性質を見極めるための方法を適宜取り入れて検査を進める必要があります。

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