血液型検査のサポートBlog

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#007:ABO遺伝子の(はてな?)

 ABO血液型では、ABO遺伝子産物は赤血球上のA抗原、B抗原ではなく、土台のH抗原にA型物質のN-アセチルガラクトサミン又はB型物質のD-ガラクトースを触媒する糖転移酵素です。つまり、通常ABO遺伝子と言っているのは、A、B糖転移酵素(以下、A-Tf、B-Tf)をコードする遺伝子を指しています。ここでは、ABO遺伝子の(はてな?)についてシェアしたいと思います。

  赤血球上のABH抗原の生合成には、いくつかの糖転移酵素が関与し、コアになる部分が生合成され、最終段階でA-Tf、B-Tfが関与し、A抗原又はB抗原が生合成されます。従って、ABO血液型の土台となるH抗原を生合成するフコース転移酵素(H遺伝子がコード)に異常(H遺伝子の変異等)があれば、当然のことながらA-Tf、B-Tfが正常に存在していてもA抗原、B抗原は生合成されません。その典型例がBombay型やpara-Bombay型となります。

ABO遺伝子の基本構造・・・7つのエキソンからなり、354個のアミノ酸から成ります。A遺伝子とB遺伝子の違いは,エキソン6、7に7カ所の塩基変異があり、そのうち4カ所にアミノ酸置換(ミスセンス変異)があります[図.1]。O遺伝子の基本構造はA遺伝子と同様ですが、261番目の塩基であるグアニンの欠失(c.261delG)によってフレームシフトを生じ不完全なタンパクとなります(=O型)。ABO遺伝子は現在300種類以上報告されており、一つの表現型から複数の対立遺伝子が報告されています。そのため、亜型の分類は遺伝子に基づくのではなく、あくまで血清学的検査が基本となります。

亜型遺伝子・・・多くは、ABO遺伝子のエキソン内(エキソン6,7)やスプライシング部位の一塩基置換が多く、その他に塩基欠失、挿入等による変異があります。エキソン6,7内に一塩基置換がある場合、一部の例外を除いて血漿中の糖転移酵素活性が認められなくなります。A2、A3、Ax、Ael、B3、Bx、Belの多くは一塩基置換が原因であるため、血漿中の糖転移酵素は認められないのが普通です。しかし、一部のA3、B3については糖転移酵素が認められ、その原因を調べた結果、エキソン6,7以外(スプライシング部位又はイントロン1内)の一塩基置換が原因であることが分かりました[図.2]。同様に、B転移酵素活性が認められるBm(A1Bm)では、ABO遺伝子のイントロン1内に存在する赤血球系細胞に特異的な転写制御領域を含む大きな欠失領域が存在することが分かりました。この領域は、赤血球系細胞に特異的な転写領域であり、その部分の変異(欠失)では、抗原発現には影響を及ぼすものの、糖転移酵素、唾液中の型物質には影響を及ぼさないこともわかりました。Bm(A1Bm)では、赤血球上のB抗原は顕著に低下(直接凝集なし)するものの、血漿中の糖転移酵素や唾液中の型物質は通常のB型と同程度なのは、こういった背景があります。

 なお、本記事はABO遺伝子のイントロダクション的なことのみを記載しましたので、詳細は専門書やISBTサイトをご覧下さい。また、論文等で見かける遺伝子表記について理解しやすいように以下に簡単に記載しますので参考にして下さい。

 

遺伝子レベルの記載(参考)

ミスセンス変異とは塩基置換によってアミノ酸に変化を伴うもの。サイレント変異とは塩基置換によるアミノ酸の変化を伴わないもの。ナンセンス変異とは塩基置換によってストップコドンになるものです。

塩基置換(Substitution)の例:c.526C>G(p.Arg176Gly)という表記は、c:coding(翻訳)領域の526番目の塩基がC(シトシン)からG(グアニン)に塩基置換し、それに伴いp:protein(アミノ酸)の176番目がアルギニンからグリシンへ置き換わるという意味になります。

スプライシング部位の異常の例:[ ]はエキソン、△△△はイントロンで示すと、遺伝子は、[Ex1(1~50)]gt△△△ag[Ex2(51~90)]gt△△△ag[Ex3]となり、遺伝子構造は、エキソン1-イントロン1-エキソン2-イントロン2-エキソン3の様な配列となります。イントロン内にはコンセンサス配列(gt△△△ag)があり、gtとag間のイントロンが切り取られ、タンパクに翻訳されるエキソン部分だけが残ります。これをスプライシングといいます。スプライシング部位の異常とは、gt又はagに変異があり、通常のスプライシングが行われないという意味です。c.50+2t>gの意味は、エキソン1の50番目の塩基の次(イントロン内)の2番目のtがgに変異したという意味になります。エキソン2の51番目の塩基の手前のagの部分に変異がある場合は、c.51-1g>tとかc.51-2a>tという表記になります。

c.261delGとは、261番目のG(グアニン)が欠失(deletion)しているという意味です。また、c.51_52insGとは、51番目と52番目の塩基の間にG(グアニン)が挿入したという意味になります。

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