血液型検査のサポートBlog

血液型検査(輸血検査)で生じる悩みや疑問(はてな?)をサポートする医療従事者向けのBlogです。

#006:ヒト血漿(血清)中の抗A及び抗Bの(はてな?)

 ヒト血漿(血清)中には、規則抗体としてA型個体には抗Bが、B型個体には抗Aが、O型個体には抗A及び抗Bと抗A,B(エーカンマビー)が存在します。通常、A型やB型の血漿(血清)中の抗Bや抗Aは、主にIgM性抗体が大半を占め、IgG性抗体は妊娠歴などがない場合は低力価であることが殆どです。

  成人血漿(血清)中の抗A、抗Bを調べた結果、A型及びB型個体(約500人)では、生理食塩液法(室温15分後の判定)で16~32倍程度の抗体価を有する集団が約6割、次いで64~128倍の抗体価を有する集団が約3割程度の分布でした。一方、O型個体の抗Aでは64~128倍にピークを有し、O型個体が保有する抗Aは、B型個体が保有する抗Aよりも抗体価が高いことが明らかとなりました[図.1]。そこで、さらに検査数を1万人以上に増やして検討した結果、O型集団の5%弱が生理食塩法(室温15分後の判定)で128倍以上の抗Aを保有し、3%程度の集団が128倍以上の抗Bを保有していることが分かりました[図.2]。また、これらの集団は間接抗グロブリン試験(IgG性抗体の検出)を実施した際にも512~1,024倍の抗体価を示します。このように、O型個体の保有する抗A、抗Bが顕著に高力価である理由は、もともと存在するIgG性抗A及び抗Bの他に、O型血漿(血清)中にのみ存在する抗A,Bの影響によるものと考えられています。

ABO血液型不適合新生児溶血性疾患(ABO-HDFN)・・・多くは、O型の母親とO型以外の児の組み合わせで起こります。その理由として、O型個体は免疫の機会がなくともIgG性の抗A及び抗Bを保有していること、加えてO型特有の抗A,B(IgG性)を保有していることが考えられます。IgG性抗体が胎盤を通過し、胎児へ移行してHDFNを引き起こすと考えられています。しかし、ABO不適合妊娠では、Rh不適合妊娠の時のように児の直接抗グロブリン試験が強陽性になることは稀です。その理由として、AやB抗原は児の体液や体組織にも存在しているため移行抗体は中和されること、児の赤血球のABH抗原は成人と比べて未発達であり、抗体結合量が少ないため血管内溶血ではなく血管外溶血であることなどが考えられます。ABO-HDFNの多くが軽症なのはこのようなメカニズムが関係しています。

O型個体が保有する抗A,BとAx型との反応性・・・抗A,Bは以前からABO亜型精査の際に同定の一助として活用されています。A亜型の一種であるAx型はA3型よりも抗原量が少ない亜型であり、抗A試薬との反応はw+~1+程度を示す亜型です(現在使用しているモノクローナル抗体では反応は様々で、少し強い反応を示す場合もある)。しかし、O型血漿(血清)とは抗A試薬よりも強い反応を示すため、Ax型の同定の際の一助とされています。そこで、市販品抗A試薬とw+程度に反応する比較的抗原量が少ないAx型を用いて、比較した結果、O型血漿*とは試験管法で2+~3+を示しました。一方、数十例のランダムB型血漿(抗A)及び10例の高力価抗A血漿(1,024倍以上)とは1+以上の凝集は認められませんでした。このように、亜型精査の際、O型血漿(抗A,B)は同定の一助となる場合があります。

*予めAx型と強く反応することを確認しているO型血漿

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