血液型検査のサポートBlog

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#003:ドリコスレクチンを用いたA/Oキメラの分離の(はてな?)

 血液型キメラには、A型とB型、B型とAB型、A型とO型、AB型とO型など、様々な組み合わせが存在します。その際、2つの血液型を持つ赤血球集団を分離し、互いの血液型(ABO以外)を検査することで、血液型キメラと決定する一助になります。つまり、ABO以外にも他の血液型が異なれば、血液型キメラである可能性が高いということになります。ここでは、ドリコスレクチンを用いたA/Oキメラの分離についてシェアしたいと思います。

 例えば、A/Bキメラ(A型とB型のキメラ)を分離する場合には、適度に希釈した抗A試薬と抗B試薬(各7mL程度)の入った2本の試験管を準備し、両方に被検者赤血球沈渣(0.5~1mL程度)を加えて、よく混和後静置します。約30分後には抗Aの試験管底部には抗Aと凝集したA型赤血球が沈殿します。一方、抗Bの入った試験管ではB型赤血球が沈殿します。抗A及び抗Bそれぞれの上清部には、抗A又は抗Bと凝集しない赤血球が存在することになります。非凝集部分を回収し、赤血球浮遊液を作製することでABO以外の血液型を調べることが出来ます。つまり、抗Aの非凝集部はB型赤血球であり、抗Bの非凝集部はA型赤血球となります。

しかしながら、A/Oキメラ(A型とO型)の場合、抗A試薬の非凝集部であるO型赤血球は容易に分離して得ることができますが、抗A試薬と凝集し沈殿した固まりをタイピング用の赤血球浮遊液にすることは出来ません。ボルテックス等の振動では解れません。また、A型唾液やA型物質であるN-アセチルガラクトサミン等を加えても凝集塊は解れず、通常の赤血球浮遊液を作製することが出来ません。これはモノクローナル抗体で分離した際のデメリットです。そこで、Dolichos biflorus:ドリコスレクチン(抗A1レクチン)[図.1]を用いてA1抗原を持つ赤血球を凝集分離し、凝集部(ドリコスレクチンと凝集した沈渣=A型)にN-アセチルガラクトサミンを加えることで凝集部の赤血球浮遊液を容易に得る方法があります[図.2]。ここで使用するドリコスレクチン(抗A1レクチン)は、通常のA型と室温15分後判定で4~8倍程度の強さ(凝集価)があれば使用可能です。

 通常、抗A試薬(モノクローナル抗体)で分離した場合には抗体によって強固に凝集しているため、無理矢理に赤血球浮遊液を作製する場合には、凝集した赤血球に10mM程度のDTT(ジチオスレイトール)溶液を加えて、IgM性抗体のS-S結合を破壊し、浮遊液を作製することもあります。しかし、どうしても微小な凝集塊が残るため血液型判定には不向きとなります。それに対し、ドリコスレクチンを用いて凝集させ、その後にN-アセチルガラクトサミンを加える方法では、凝集塊のない血球浮遊液が得られるメリットがあります。これは抗体ではないレクチンの特性を活用した方法です。但し、ドリコスレクチンを用いて分離が可能なのは、A/O、AB/Oキメラの場合に限定されます。また、この方法は、A型(AB型)がある程度(20%以上)の割合で混在しているキメラの分離の場合には有効ですが、それ以下の混合率では、うまく分離出来ない場合もあります。

 

【ドリコスレクチンを用いたA/Oキメラの分離(参考例)】 

(1) ドリコスレクチンを試験管に5mL程度準備する。
(2) 被検赤血球沈渣を250μL程度加える。
(3) 2,000回転で2分間遠心する。
(4) 軽く試験管を転倒混和し、試験管立てに立てて30分程度静置する。
(5) ドリコスレクチンと凝集する赤血球を沈殿させる。
(6) 30分後、上清部をアスピレーションして除去する。
(7) 試験管壁をつたわらせるようにPBS(生理食塩液でも可)を加える。
(8) PBS又は生理食塩液を吸引除去する。
(9) 沈殿した凝集塊に1%N-アセチルガラクトサミン(in PBS)を1mL加える。
(10) 15秒間、ボルテックスを行い凝集塊をほぐす。
(11) 室温に30分間静置後、PBS(生理食塩液でも可)で3~5回洗浄する。
(12) 3~5%の赤血球濃度になるように浮遊液を調整する。
(13) 抗A、抗B及びドリコスレクチンとの反応を観察し、分離したことを確認する。

 

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