血液型検査のサポートBlog

血液型検査(輸血検査)で生じる悩みや疑問(はてな?)をサポートする医療従事者向けのBlogです。

#033:自己赤血球を用いた自己抗体吸着の(はてな?)

 血漿(血清)中に、間接抗グロブリン試験で3+以上の反応を示す温式抗赤血球自己抗体(以下、自己抗体)が存在した場合、そのままでは輸血上重要な同種抗体の混在を確認することができません。そのため、通常は自己赤血球又は同種赤血球を用いて自己抗体を吸着除去し、吸着上清を用いて同種抗体の確認作業を行います。ここでは、自己赤血球を用いた自己抗体吸着の(はてな?)についてシェアしたいと思います。

  自己抗体を保有した血漿(血清)では、検査したすべての赤血球と陽性となるため、その中に同種抗体が混在していても判別できません。自己抗体に混在した同種抗体の推測をするためには、少し感度を下げた間接抗グロブリン試験を実施することも手がかりとなります。PEG-IATは低力価の抗体検出に優れていますが、自己抗体の反応を増強させるため、同種抗体を完全にマスクしてしまう傾向があります。従って、このようなケースでは、反応増強剤無添加の60分加温-IATや2~3倍に希釈した血漿(血清)を用いて、凝集の強弱の有無を見つけることも目安となります。[SL.1]の例は自己抗体に同種の抗Eが混在したケースですが、PEG-IATではすべて4+に反応し、抗体の混在には気が付きません。しかし、60分加温-IATを実施することで、凝集に強弱が現れ、抗体の混在を疑うことができます。過去3ヶ月以内に輸血歴のない患者さんだったため、自己赤血球を用いて自己抗体を吸着除去し、同種抗体の抗Eを同定した一例です。

 自己赤血球で自己抗体を吸着除去するには、直近(3ヶ月以内)に輸血をしていないことが前提となります。例えば、3日前に別の病院で緊急的にランダムの血液を1Bag(400mL由来赤血球製剤)輸血し、その後転送されてきた患者さんを想定します。実はこの患者さんは同種抗体としてLISS-IATで8倍程度の抗Eと32倍の自己抗体を保有していましたが、自己抗体の反応が4+のため、混在している同種抗体の確認が取れないまま、緊急的な対応としてABO同型のランダムの赤血球製剤を輸血しました。また、輸血した血液はR1R2(D+C+E+c+e+)型の赤血球でした(後日判明)。3日経過しても、特に溶血所見はありませんが、次回の輸血に備えて精査を行うことになりました。もしも、ここで輸血していることが分からず(前病院から情報が伝達されず)、DATも強陽性(4+)だし、全ての赤血球と陽性であることから自己抗体と考え、自己赤血球で吸着操作を行ったら、同種抗体の抗Eは検出できるでしょうか?ということを考えてみたいと思います。なお、抗体の強さにもよりますが、抗E保有者にE+の血液を輸血しても、抗体の一部は輸血した陽性赤血球に結合しますが、血清中の全ての抗体が輸血した血液に結合し、血清中から完全に消えることはありません(但し、1+程度の弱い抗体であれば完全に消失する場合もあります)。従って、4倍程度の抗Eが血清中に存在しているという想定です。

SL.2]は、自己抗体(32倍程度)の中に、LISS-IATで4~8倍程度の抗体価になるように同種抗体を混合し実験した結果です。この実験は、自己赤血球の中に対応する抗原がどの程度混在すると、自己抗体と一緒に同種抗体が吸着除去される(検出できなくなる)かを検討した実験です。なお、吸着操作は、患者の自己赤血球1mLに血漿(血清)を1mL加えて、そこにPEGを加えるPEG吸着法を想定して実験を行いました。その結果、吸着する赤血球沈渣に抗体が反応する赤血球が10%程度含まれると、8倍程度の同種抗体は一緒に吸着除去されてしまうことが分かります(抗体価が2~4倍ではもっと少ない量の赤血球で吸着除去されます)。LISS-IATで8倍は試験管法で3+~4+、PEG-IATでは4+の強い凝集が観察される程度です。この様な比較的強い抗体でも吸着されて無くなるということです。

 例えば、体重50Kgの人の循環血液量はおよそ3,500mLです。Hctが30%と仮定すると赤血球量は1,050mLになります。ここにIr-RBC-LR-2(400mL由来)を1Bag輸血すると、約280mLの赤血球が入りますので、輸血血液の体内での割合は理論上24%前後となります。確実に10%以上の混合率になりますので、殆どの同種抗体は吸着除去されるということです。従って、赤血球製剤を1Bagでも輸血した患者さんでは、3ヶ月程度は自己赤血球を用いて自己抗体を吸着するのはできないことになります。

 

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