ABO血液型をコードする遺伝子は第9染色体長腕にあり、長さが19.5Kbpで7つのエキソンから構成されています。エキソン6及び7がA,B転移酵素活性に重要な部分で、A遺伝子(ABO*A1.01)とB遺伝子(ABO*B.01)では7箇所の塩基置換があり、そのうち4箇所がアミノ酸置換を伴います。AとBの特異性を決定する4箇所の塩基は、526,703,796,803番目の塩基で、対応する176,235,266,268番目のアミノ酸が異なっています。O遺伝子は、A遺伝子と基本構造は同じですが、261番目の塩基(G:グアニン)の欠失によってフレームシフトを起こし、117番目のコドンで終止となるため不完全なタンパク質しか合成されず、結果として転移酵素活性を持ちません。
現在、国際輸血学会のリストに掲載されている亜型に対応する遺伝子は、A2アリルが20種類(ABO*A2.01〜20)、A3アリルが7種類(ABO*A3.01〜07)、Aweakアリルが45種類(ABO*AW.01〜45)、Amアリルが2種類(ABO*AM.01〜02)、Aelアリルが8種類(ABO*AEL.01〜08)あり、A亜型に関する既知のアリルだけでも80種類が存在します。B亜型も同様にB3アリルが8種類(ABO*B3.01〜08)、Bweakアリルが34種類(ABO*BW.01〜34)、Belアリルが4種類(ABO*BEL.01〜04)でB亜型に関するアリルだけでも40種類以上が存在します。これらの変異は主にABO遺伝子のエキソン6、7の一塩基置換であり、この他にもスプライシングサイトやイントロン1に存在するエンハンサー部分(赤血球系細胞に特異的な転写制御領域)の一塩基置換、プロモーター部位の変異なども合わせると、相当数になるということです。また、ABO血液型の場合には一つの表現型から複数の対立遺伝子(アリル)が検出されますので、遺伝子と表現型が1:1の関係には必ずしもなりません。そこが厄介な部分であり、ABO亜型の決定はあくまで血清学的な所見(凝集開始時間、部分凝集、被凝集価、血漿中の転移酵素活性、唾液の型物質など)で分類し、遺伝子検査で裏付けを取るといった意味合いであることを知っておく必要があります。遺伝子検査をすればすべて解決できる、ということではありません。また、ABO遺伝子を網羅的に解析するには時間と労力もかかり、現実的ではありません。
一方、遺伝子検査である程度決定可能な亜型(表現型)も存在するのも確かです。例えば、日本人から最も検出頻度が高いBm型では遺伝子変異部位がほぼ決まっているため、高確率(99.7%)で血清学と合致します。また、cisAB型においても血縁者の検査が困難な場合は、遺伝子検査で対応する遺伝子(ABO*cisAB.01or 02)が同定されれば、cisAB型と判定可能です。
ABO遺伝子が正常でも前駆物質(H抗原)の生合成ができないBombay型では、A抗原やB抗原が生合成されません。また、白血病などで観察される抗原減弱例では、ABO遺伝子自体は正常であっても、転写活性の低下(転写因子の異常)によって抗原が減少する場合もあります。したがってABO遺伝子を調べるだけでは解決できない例もあることを知っておく必要があります。
【Keyword】#ABO遺伝子 #ABO亜型遺伝子 #一塩基置換
【参考Blog】
#061:赤血球系細胞に特異的な転写制御領域内の変異によるA3型の(はてな?)
https://www.bloodgroup-tech.work/entry/2020/06/16/052447
#062:スプライシング部位の変異によるA3型の(はてな?)
https://www.bloodgroup-tech.work/entry/2020/06/21/062137
#063:プロモーター領域の変異で生じたB3型の一例の(はてな?)
https://www.bloodgroup-tech.work/entry/2020/06/25/061017