血液型検査のサポートBlog

血液型検査(輸血検査)で生じる悩みや疑問(はてな?)をサポートする医療従事者向けのBlogです。

#143:輸血検査のQ&A(血液型キメラの際、本来の血液型はどっち?)

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血液型キメラとは、一つの個体の中に由来の異なる2つの造血幹細胞が存在することです。例えば、A型とB型の造血幹細胞が一つの個体の中に一生涯共存するため、それぞれの造血幹細胞から分化した細胞(A型赤血球とB型赤血球)が混在する状態です。身近な例でいうと、双生児で一方の造血幹細胞がもう一方へ入り込む例や出産時に母親の造血幹細胞が子供へ入り込んでキメラになる例が考えられていますが、キメラ症例自体が少ないため、そのメカニズムの詳細はわかっていません。ただ、言えることは通常の血液型キメラ(2卵子性双生児)の場合では、血管内のみ(血液細胞のみ)が2つの異なる集団が混在しているだけで、内皮細胞、口腔粘膜、皮膚、唾液、爪、髪などは本来の血液型物質のみが発現しています。従って、A型とB型の血液型キメラの場合で本来の血液型がA型であれば、唾液や爪の血液型はA型となります。血漿中の転移酵素活性もA転移酵素が認められます(時々、B転移酵素活性が非常に弱く出てきますが、これは赤血球由来の転移酵素が出ていると考えられます)。また、血液型キメラでは、ABO以外にも不一致を生じることもあります。従って、血液型キメラが疑われた際には、ABO以外の血液型を調べることは解決の一助になります。A型、D陽性とB型、D陰性のキメラや、A型、M+N-とB型、M+N+のキメラなど、様々です。勿論、ABO以外全て同じという場合もあります。

また、凝集部の割合と本来の血液型とは無関係であり、抗A、抗Bとの反応が強い(凝集塊が大きい)方が本来の血液型とは限りません。以前経験したキメラでは、A型5%、O型95%のA/Oキメラで、唾液、爪、血漿中のA転移酵素は通常のA型と同様の反応を示しました。この例では本来の血液型がA型で、O型の造血幹細胞の方が後から入ってきたものと考えられます。この例では、HLAタイプもトリプレット(3つ)を示し、赤血球型だけではなく、HLA型もキメラになることを証明した例でした。

 

【参考Blog】

・#002:血液型キメラの(はてな?)

https://www.bloodgroup-tech.work/entry/2020/01/04/091204

 

・#111:ケーススタディー(Episode:11)スライド法の凝集開始時間が決め手となる血液型キメラ(B/Oキメラ)

https://www.bloodgroup-tech.work/entry/2021/02/01/051733

 

・#119:ケーススタディー(Episode:19)抗A1レクチンによるA型とO型の血液型キメラの分離

https://www.bloodgroup-tech.work/entry/2021/03/05/052318