血液型検査のサポートBlog

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#136:ケーススタディー(Episode:36)DAT陽性の原因は自己抗体だけではない(鑑別のための検査方法)

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 直接抗グロブリン試験(以下、DAT)は、赤血球に既に結合している抗体又は免疫グロブリンの存在を明らかにする検査です。一方、間接抗グロブリン試験(以下、IAT)は、被検者血漿(血清)中に抗体等が存在するかを調べる検査です。用語的には「直接」「間接」の違いだけですが、視点が異なることを理解する必要があります。使用する抗ヒトグロブリン試薬には、抗IgG、多特異抗体、抗補体のみのものがあります。抗IgGで陽性の場合は抗体解離試験を行い結合している成分を確認しますが、抗IgGが陰性で補体成分のみ陽性の場合は問題視する必要はありません。

 DAT陽性の原因として代表的なものは赤血球に対する自己抗体であり、DATの強さは1+~4+と結合している抗体量によって異なります。一方、自己抗体以外でもDATが陽性になる場合があります。その代表例は免疫グロブリンの非特異的な結合です。多発性骨髄腫、白血病、MDS、肝硬変、膠原病、感染症などでは、血清中に様々なγグロブリンやM蛋白を生じることもあり、これらの免疫グロブリンが血清中に多量に存在すると、体内で赤血球に非特異的に結合します。その他にも薬剤に対する抗体が産生された際には、薬剤が結合した自己赤血球とのみ反応します(不規則抗体同定用のパネル赤血球とは反応しません:市販品パネル赤血球には薬剤は結合していないため)。また、血清中にある免疫複合物は赤血球のCR1を介して結合し、脾臓へ運搬されて処理されます。この結合量も一定量を超えるとDAT陽性として検出されることになります。従って、DAT陽性になる要因(原因)は複数ありますが、自己抗体以外による原因ではw+~1+程度の反応であり、DATが3+以上を示すことは殆どありません。自己抗体によるDAT陽性の場合は、強弱はあるものの、血清中にも自己抗体が検出されますので、血清中の不規則抗体検査が陰性で、DATのみw+~1+程度の場合は、臨床的には問題がなく殆どの場合は自己抗体以外によるものと考えても間違いではありません。

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 DAT陽性の原因を調べるには、DAT陽性赤血球を用いて、赤血球抗体解離試験を実施し、解離液とパネル赤血球(同種赤血球)との反応を観察することです。自己抗体は自己赤血球を含む全ての同種赤血球と反応する抗体ですので、解離液とパネル赤血球の反応は陽性になります。一方、γグロブリン等の免疫グロブリンが非特異的に結合し、DATが弱陽性になっている例では、解離液中には免疫グロブリンが多少存在しますが、そもそも赤血球抗原に特異的に反応するわけではありませんので、解離液とパネル赤血球の反応は陰性となります。従って、DAT陽性赤血球の抗体解離試験を行うことで結合しているものが抗体なのか非特異的なものかを鑑別することが出来ます。但し、注意点として、解離液とパネル赤血球との反応を観察する場合は、あまり感度が高くない間接抗グロブリン試験を行う必要があります。というのも、γグロブリン等の免疫グロブリンが非特異的に結合したものであっても、PEG等を添加したPEG-IATではw+~1+を呈することがあり、判断を誤る可能性があります。PEGは赤血球抗体以外であっても反応を増強するためです。従って、赤血球の抗体検出を目的に実施しますのでLISS-IATなどが一般的です。LISS-IATで2+以上出る場合は、ほぼ自己抗体の可能性が高いと考えて検査を進めた方が良いと思います。

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 以前、DAT陽性患者さんの赤血球(734例)の抗体解離試験を実施した結果を上に示しましたが、約73%は自己抗体が原因でDAT陽性になっていたものです。その他、免疫グロブリンが非特異的に結合し、DATが陽性(弱陽性)になっていたのが22%程度あります。一部の例(4.8%)は、少し前に輸血を行い、その後抗体が産生されたために体内に残っている抗原陽性赤血球に同種抗体が結合しDATが陽性になったものです。こういった例では、抗体が輸血された血液に結合(例えば、輸血後に抗Eが産生されて、以前輸血したE+赤血球に結合)しDATが陽性(1+程度)になります。しかし、溶血所見がなく、DSTR(遅発性血清学的輸血反応)の一種であり、抗体感作量が少ないために抗体が感作した赤血球が破壊されずに体内を循環していると考えられます。

 

【関連blog】

・#030:pan-reactiveな自己抗体の(はてな?)

https://www.bloodgroup-tech.work/entry/2020/03/11/060742

 

・#036:自己抗体によるDAT陽性赤血球の体内破壊の(はてな?)

https://www.bloodgroup-tech.work/entry/2020/03/29/064522

 

・#132:ケーススタディー(Episode:32)血中免疫グロブリン量増加の影響によるPEG-IATの非特異反応

https://www.bloodgroup-tech.work/entry/2021/05/24/054308