血液型検査のサポートBlog

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#135:ケーススタディー(Episode:35)B型患者が過去にA型ドナーから造血幹細胞移植を行った例

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 ABO血液型判定は、抗A及び抗B試薬を用いて被検者の赤血球上の抗原を調べる「オモテ検査」と既知のA1型赤血球及びB型赤血球試薬を用いて、被検者血漿(血清)中の規則抗体である抗A又は抗Bの有無を調べる「ウラ検査」があります。オモテ・ウラ検査の結果が一致した際にABO血液型が確定(決定)されます。時々、オモテ・ウラが完全に不一致になる場合があります。多くは、血漿(血清)中の規則抗体である抗A又は抗Bが弱いために一見陰性になるケースが殆どであり、そのような場合はウラ検査を判定する際に少し時間(10分程度)を置いて遠心判定することで解決される場合もあります。それでも解決しない(不一致)の場合は、ABO亜型であるBm型(オモテO、ウラB)やA1B型(オモテA、ウラAB)、規則抗体である抗A又は抗Bの欠損又は極度に抗体が弱い例を想定し、精査を進めることになります。

 今回の症例では、オモテA、ウラABであり、特記すべき患者情報が無ければ、①ウラの抗B(規則抗体が弱い又は欠損)、②A1Bの亜型の疑い、この2つの肯定と否定を行う方向で精査を進めるのが一般的です。ウラ検査が弱い場合は、まずは少し(10分程度)静置してから遠心判定する、それでもダメな場合は少し低温下(4℃5分程度)で反応を観察します。それでもダメなら、ウラ検査に用いるA1型、B型赤血球を酵素処理し感度を上げてみることもします。今回の例ではいずれの検査でもAB型であることから、ウラはAB型と考えられました。そこで、次に亜型(A1B)を疑い、レクチンとの反応性、血漿中の転移酵素、抗Bを用いた吸着解離試験などを追加していきます。その結果、予期せぬ反応が出てきました。通常のA1型としてはドリコス(抗A1)レクチンとの反応が少し弱いこと、血漿中のB転移酵素が確認できたものの、A転移酵素が検出されないこと、抗Bによる吸着解離試験で被検者赤血球上のB抗原が確認できないなど、A1B型とは異なる反応でした。こういう結果が得られた場合は、まずは被検者情報を再度確認すること、過去の造血幹細胞移植などの有無を確認することです。

 調査の結果、実はこの患者さんは、過去(10年前)に造血幹細胞移植を行っていることが分かりました。オモテ検査がAであることから、移植したドナーはA型であることは想像出来ます。問題は、本来の血液型は何型だったのか?ということです。それを確認するには、唾液や爪などの体細胞由来試料を用いた検査が有用です。移植を行っても、唾液や爪のABO型は生涯変化がありません。この患者さんの唾液及び爪の検査はいずれもB型であり、本来の血液型はB型で、A型の造血幹細胞移植を行っていることが想定されました(B転移酵素活性が認められたのも本来B型だからです)。移植されたA型の幹細胞が正着すると、骨髄ではA型抗原を持つ赤血球が生合成されますが、その抗原は通常のA1型とは少し異なるA型が生合成されます(通常はA抗原が生合成されたあとにさらに糖付加がされてA1抗原が生合成される)。ドリコスレクチンとの反応が少し弱かったのはそのためです。通常の市販品抗A試薬では抗A抗体価が強いため、多少A抗原が弱くても通常4+に反応します。被凝集価で観察しても、2管程度の差だと思います(A2型よりも少し多い程度)。

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 造血幹細胞移植を行った後のオモテ・ウラ検査のロジックは上の表にまとめましたが、ABO亜型(Bm、A1B)、抗A、抗B欠損などと類似の反応性を示します。今回の例(B←A)の移植の場合は、移植されたA型の造血幹細胞から分化した抗体産生細胞が抗Bを産生しますが、患者さんは元々B型のため、血漿中には多量のB型物質が存在すること、血管内皮細胞上にもB抗原が発現されていることから、血漿中に抗Bはほぼ検出されなくなります(抗体の中和と血管内皮への吸着、そしていずれ免疫寛容が生じるため)。そのため、鑑別は、血漿中の転移酵素、唾液や爪などの体細胞由来試料による検査、そして、最終的には患者情報の収集が欠かせません。

 

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【関連blog】

・#093:ABO亜型個体の唾液中のA,B型物質量の(はてな?)

https://www.bloodgroup-tech.work/entry/2020/11/01/053815

 

・#094:唾液検査でABO型が判定出来ない場合は爪を用いる!の(はてな?)

https://www.bloodgroup-tech.work/entry/2020/11/05/124840