血液型検査のサポートBlog

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#133:ケーススタディー(Episode:33)PEG-IATによる非特異反応を軽減し、効果的に抗体を検出する策

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 ポリエチグリコール(以下、PEG)を用いた間接抗グロブリン試験(以下、PEG-IAT)は、低力価の抗体を感度良く検出するメリットがありますが、デメリットとして赤血球抗体以外のγグロブリン等の影響を受けて非特異反応(弱陽性の凝集)を呈することがあります。とくにM蛋白を産生するような被検者(多発性骨髄腫、白血病、肝硬変、膠原病、感染症など)では、強弱の差はありますが、ほぼ漏れなく非特異反応を起こします。この現象は、PEGによって赤血球抗体以外の成分が赤血球上に非特異的に結合するためです。通常間接抗グロブリン試験の工程では、抗ヒトグロブリン試薬を添加する前に、洗浄操作を行うため、血漿(血清)中に存在した抗体やγグロブリン等は洗い流されます。赤血球に非特異的に結合した抗体以外の成分も、通常は洗浄操作によって洗い流されますが、結合量が多い場合は赤血球上に残り(又は剥がれない)、そこに抗ヒトグロブリン試薬が添加されると、免疫グロブリンのFC部分を架橋し、弱陽性の凝集を呈するということになります。このような非特異反応は、通常w+~2+までバリエーションもあるため、一見、赤血球抗体との見分けもつきません。

実際に、不規則抗体が陰性で非特異反応を呈している血液疾患の患者さんの2例の血漿(検体1、2)を用いて、ランダムに選んだ3例の赤血球(①、②、③)とLISS-IAT及びPEG-IATを行い、どの程度赤血球抗体以外の成分が結合するかをフローサイトメトリー(FCM)で調べてみた結果、PEG-IATの場合に顕著に非特異な結合が観察されました(下図参照)。f:id:bloodgroup-tech:20210530081419p:plain

この現象を回避するためには、血漿(血清)中のγグロブリン濃度を下げる必要があり、検体を2倍程度に希釈することが効果的ですが、希釈=検出感度低下と考えるため、なかなか実行できない場合もあります。そこで、希釈した血漿を用いてPEG-IATを実施し、原液血漿を用いた際のLISS-IATとどの程度検出感度に差があるかを調べてみました。

 

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 検討に用いたのは、通常検出される主な血液型抗原に対する抗体(抗E、抗E+抗c、抗Jra、抗Dia、抗Fyb)で、抗体価は2~4倍の低力価のものを使用しています。

 結論から言うと、2倍希釈した血漿を用いてPEG-IATを実施するのと原液血漿でLISS-IATを実施するのは、ほぼ同じ検出感度であるということです。上のグラフは、原液血漿を用いたLISS-IATと希釈血漿(1.5~2.5倍希釈)を用いたPEG-IATを行った際の赤血球への抗体感作量をFCM解析したものです(抗体結合量が高いほど強い凝集になると考えてください)。PEGは赤血球に抗体やγグロブリンを結合(沈降)されるため、抗体検出感度も高くなりますが、非特異反応も起こしやすくなるということです。

 弱い抗体(低力価)の感度を上げるためにPEG-IATは効果的ですが、一部の患者さんの場合は非特異反応によってw+~2+程度の凝集が出てしまいます。それを回避するには、LISS-IATで抗体検査を行うか、LISS試薬がなければ検体血漿(血清)を1.5~2.0倍程度に希釈しPEG-IATで抗体検査を実施することで、ある程度非特異反応を低減し輸血上問題となる抗体検出もできるということです。