血液型検査のサポートBlog

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#132:ケーススタディー(Episode:32)血中免疫グロブリン量増加の影響によるPEG-IATの非特異反応

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 連銭形成とは、コインを重ねてずらした様に赤血球が連なって見える現象です。この現象は、多発性骨髄腫やマクログロブリン血漿、肝硬変など血中の免疫グロブリン(主にγグロブリン)が増加した疾患の患者さんの血漿(血清)で確認されます。赤血球上の表面は陰性荷電し、一定のζ(ゼータ)電位を保って反発しているため、通常は隣接する赤血球同士が連なることはありません。しかし、免疫グロブリンが増加し高タンパク血症になると粘度が増し、ζ(ゼータ)電位が低下するため隣接する赤血球同士の反発力低下が生じます。その結果、連銭形成が観察されます

 連銭形成は、被検者血漿(血清)と赤血球をスライドガラス上で混合した際に通常確認される現象です。連銭形成を生じる血漿(血清)を用いて抗体スクリーニング等を行うと、なぜ間接抗グロブリン試験で非特異反応を生じるのでしょうか?。そもそも不規則抗体検査の間接抗グロブリン試験は、被検者血漿(血清)と赤血球浮遊液(不規則抗体検出用試薬)を試験管内で反応させ、その後、洗浄操作(通常はPBSを試験管に加えて遠心し、上清を除去後に同様の操作を繰り返して洗浄する)が入ります。そのため、血漿(血清)成分は除去されます。それなのになぜ影響が出るのか、ちょっと不思議に思いますよね。そもそも、血漿や血清が存在するために粘稠が増して隣接した赤血球が連なる現象なので、洗浄操作を加える間接抗グロブリン試験で影響が出るということが理解できない・・・という意見をよく耳にします。

実は、血中に多量にγグロブリンや免疫複合物などが増している血漿(血清)の不規則抗体検査を実施する際に、PEG(ポリエチレングリコール)を添加したPEG-IATを行うことが非特異反応を誘発する一つの要因です。実例を踏まえて解説します。

 

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 PEGを用いた間接抗グロブリン試験(PEG-IAT)は、弱い抗体を感度良く検出するのに適しています。しかし、高感度の検査では必ず一定の頻度で非特異反応も発生します。特に血漿(血清)中に、不規則抗体以外のγグロブリンや免疫複合物が多量に存在した場合には、PEGの作用で赤血球上に非特異的に結合します。間接抗グロブリン試験は、抗ヒトグロブリン試薬を添加する前に洗浄操作を行いますが、PEGを使用したために必要以上に結合したγグロブリン等がすべて赤血球から剥がれることはありません。その状態で抗ヒトグロブリン試薬を添加するために、γグロブリンのFC部分と抗ヒトグロブリン試薬が架橋しw+~2+程度の非特異的な凝集として現れます。また、殆ど全ての赤血球と弱陽性になります。そして、凝集反応は通常の抗体による凝集とは微妙に異なり、試験管底にべたついた凝集が観察されます。勿論、こういった患者さんでは直接抗グロブリン試験(DAT)も弱陽性になっています。しかし、赤血球抗体解離試験を実施しても赤血球抗体が解離されないのが特徴です。つまり、赤血球抗体以外によってDATが弱陽性になっているということです。

 PEG-IATで弱陽性を認めた場合は、①患者の疾患(血液疾患、肝硬変、膠原病など)を確認すること、②PEG-IATで持ち越し現象を起こす低温反応性抗体(抗M、抗P1、抗Lea、抗I等)の有無を否定すること、③PEG-IATで洗浄前のペースト状態の有無を確認すること、④以下の確認方法で連銭形成の有無を確認すること、以上を考慮して赤血球抗体か否か(非特異反応)を判断する必要があります。このような血漿(血清)を用いて検査を実施する場合は、粘稠度を下げるためにPBS等で2倍に希釈した検体を用いてPEG-IATを実施するか、少し感度を下げたLISS-IAT又は60分加温-IATを実施することで、多少回避出来る場合もあります。また、このような反応は、血清よりも血漿を使用した際に強く出る傾向があります。従って、血漿を用いた検査で弱陽性の場合は、なるべく血清を用いて検査することも非特異反応に悩まされずに検査を進めるコツです。

 

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【関連blog】

・#012:PEG-IATが弱陽性の場合の(はてな?)

https://www.bloodgroup-tech.work/entry/2020/01/25/070412

 

・#076:非特異反応を軽減したPEG-IATの上手な使い方の(はてな?)

https://www.bloodgroup-tech.work/entry/2020/08/19/052035