血液型検査のサポートBlog

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#131:ケーススタディー(Episode:31)ABO血液型判定でウラの反応が弱い時に実施すべきこと

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 健常人約100万検体のABO血液型判定を自動検査機器で実施した際、7,513件(0.75%)がオモテ又はウラ検査に異常(予期せぬ反応)を認め、ABO血液型が確定出来ませんでした。7,513検体の内訳として、15%がオモテ検査の異常(若干抗原量が少ない範疇の検体を含んでいますので、全てが亜型ではありません)、85%はウラ検査の反応(規則抗体の抗A、抗B)が弱いために、オモテ・ウラ不一致又はウラ弱となっています。自動検査機器では試験管法に比べてウラ検査の反応が弱くなる傾向があり、試験管法で実施すると通常の反応の範疇であっても、機器では弱めに判定される傾向があります。このような検体を用手法(試験管法)で再検査すると99%以上が単にウラ検査の反応(規則抗体の抗A又は抗B)が若干弱いだけであり、通常のA,B,O型として確定されます。自動検査機器ではウラ検査の反応が弱いのは確かですが、通常の検体の中にも規則抗体の抗A又は抗Bが弱い検体が一定の頻度で存在するということです。また、ウラ弱が認められる6割はA型であり、規則抗体の抗Bの反応が弱いために、オモテA、ウラABやウラ弱と判定されて血液型が保留になるという事実は知っておく必要があります。患者さんに限った事ではないという事です。亜型を検出する一つのきっかけとしてウラが弱いことで気がつくことがありますが、6千件以上のウラ弱の検体の99%は単にウラの反応が弱いだけであり、亜型(Ael又はBelなど)が検出された例はごく僅かということです。これが現実です。

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 では、ウラ検査の反応が弱い場合に、追加すべき検査は何か?ということですが、ABO血液型判定は、通常抗A及び抗B試薬と被検者赤血球の反応を観察するオモテ検査と既知のA1型赤血球及びB型赤血球と被検者血漿(血清)の反応を観察するウラ検査がありますが、どちらも試験管法で実施する場合は通常即時判定です。オモテ検査に使用する抗A及び抗B試薬は高力価抗体のため、即時判定でも十分強固な凝集を形成します。しかし、ヒト血漿(血清)中に存在する規則抗体の抗A又は抗Bの抗体価は、通常16倍程度を中心とした正規分布で存在しますが個体差もあります。また、抗体価が4倍以下では即時判定では1+~2+程度の凝集となり、試験管をオモテ検査の判定と同じように強く振ると、陰性と誤判定する場合もあります(通常、即時判定で3+以上になるのは抗体価が概ね8倍以上ある場合)。従って、ウラ検査の反応が弱いというケースにおいては、被検者血漿(血清)とウラ検査用の赤血球を混ぜたあとに、良く混和し、10~15分程度静置してから遠心判定することで抗原抗体反応が促進されます。また、即時判定で反応する規則抗体の抗A及び抗BはIgM型の抗体であり、糖鎖に対する抗体であるため、低温下(4℃)や酵素処理した赤血球と強く反応する性質を有しています。そのことを上手に活用し、判定することがポイントです。但し、低温下(4℃)や酵素処理した赤血球を用いる場合は、ヒト血漿(血清中)に存在する抗Iなどの冷式抗体の影響を受けやすくなりますので、必ずO型(抗A、抗Bと反応しない)を対照として同時に検査することも誤判定を防ぐポイントになります。

 

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 No.1はA型で血漿中の抗Bが弱い例、No.2はO型で抗Aが弱い例、No.3はO型で抗Bが弱い例について、それぞれ追加検査を行った際の反応の一例です。酵素処理することで反応性は増強しますが、少し手間がかかりますので、まずは室温にインキュベートし、それでも弱い場合は少し温度を下げてみる、それでも弱い場合は血漿量を増量するというのが特別な操作をしなくてもある程度反応を増強させる方法となります。

 

【関連blog】

・#028:ABOウラ検査の予期せぬ反応の(はてな?)

https://www.bloodgroup-tech.work/entry/2020/03/04/063348