血液型検査のサポートBlog

血液型検査(輸血検査)で生じる悩みや疑問(はてな?)をサポートする医療従事者向けのBlogです。

#130:ケーススタディー(Episode:30)オモテO型でウラ弱の際の考え方と解釈

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 ABO血液型の判定は、赤血球上のA又はB抗原の有無を調べるオモテ検査と、血漿(血清)中に存在する規則抗体(抗A、抗B)を調べるウラ検査があり、オモテとウラの結果が一致した場合のみ血液型を確定するロジックになっています。従って、オモテ検査で反応が弱い又は部分凝集が観察されるという場合はオモテ検査が保留のため、ウラ検査が正常(期待する結果)でも判定保留になります。例えば、オモテ検査でO型判定の場合は、通常ウラ検査の反応はA1型赤血球及びB型赤血球と3+以上の凝集反応が観察されます。そのため、A1型赤血球及びB型赤血球のどちらかがw+~2+程度の反応の場合、ウラ検査結果の判定を保留にすると血液型は確定できないことになります(少し弱いが凝集があるからO型で良いとすれば、オモテ・ウラ一致となりO型となります)。

 ABO血液型判定で悩まされる多くはウラ検査の反応が弱い、というケースが殆どと言っても過言ではありません。オモテ検査で反応が弱い又は部分凝集が観察される場合は、ABO亜型や血液型キメラ、後天的な抗原減弱などが推定されるため、ある程度明確な基準があるため殆どが精査対象になりますが、ウラが弱い場合には、どの程度で弱いと判断したら良いか迷うためです。さらに、ヒトが保有する規則抗体の抗A、抗Bには個体差もあり、どの程度の反応強度から亜型を疑うかの明確な基準もありません。また、試験管法による判定においては、凝集の崩し方によっても凝集グレードが若干異なりますので、検査担当者の技量や経験に判断が委ねられるという点が悩む要因です。

 ウラ検査の反応が弱いということで輸血の対応に困る例は少ないのですが、本来の血液型を確定するという観点からすると、一度確定した血液型を後で覆すことが難しいため、慎重になるのも無理はありません。オモテがO型でウラの抗A又は抗Bのどちらか一方が弱い反応を示す場合に考えることは、①単純に規則抗体が弱い場合、②Ael又はBelなどオモテ検査がO型に見える亜型の場合です。本質的にA又はB型であるにも関わらずオモテ検査がO型に見えるのは、赤血球上に存在する抗原量が顕著に少ない為です。このような血液型を証明するためには、抗A又は抗Bを用いて吸着解離試験を行い、解離液の反応に基づいて判定しなければなりません。吸着解離試験を実施する意義は、O型とO型以外を区別するためであるということをまずは理解する必要があります。

 

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 例えば、オモテO型、ウラB型(血清中に抗Aのみ存在)の例は、日本人に多く検出されるBm型の反応ですが、このような検体に遭遇した場合に抗B試薬を用いて吸着解離試験を実施しますが、解離液から抗Bが証明された場合に、ここで言えることは「オモテO、ウラBで、吸着解離試験が陽性だからBmだ!」ではないということです。吸着解離試験の結果は、あくまでO型ではない、という結果であり、抗Bが解離されたということは、B抗原を有する赤血球の存在がわかった!というところまでです。この結果から、Bm型の可能性、B/Oキメラ(Bが数%のキメラ)の可能性、B抗原が顕著に減弱した例(AMLなど)の可能性があると判断し、血漿中のB転移酵素活性、唾液中の型物質、レクチンとの反応性などを総合的に判断し、最終的に決定することになります。

 

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 Ael又はBel型は、血漿中にA又はB転移酵素活性は認められず、唾液中からも型物質が微妙であるため、通常は検出できません。従って、吸着解離試験のみがO型かAel又はBel型を決定する唯一の方法となります。また、Ael又はBel型個体は不規則性の抗A又は抗Bを保有し、その強さもw+から2+、3+とバリエーションがあります。そのため、オモテがO型で、ウラ(A1赤血球、B型赤血球の反応)が2+、4+からAel型が検出される場合もあれば、単純にウラが弱いO型の場合もあります。

 不規則性の抗A1や抗Bが2+~3+以上ある場合には、例え本質的にはA又はB亜型であっても輸血はO型になる(O型以外では交差適合試験で陽性にあることがある)ことが多いのも事実です。従って、無理にAel又はBel型を決定する意義は輸血を前提に考える場合は低いと言えます。これは経験上からの私見ですが、オモテO型でウラ検査が弱いことで亜型を疑うのは1+以下の場合と考えています。これは絶対的な正解ではありませんが、2+程度の検体(数百例)を対象に吸着解離試験を実施して、Ael又はBel型だったのは僅か1例程度という経験に基づくものです。従って、2+以上の反応があれば通常は若干抗Aと抗Bの反応強度のバランスが悪いO型と判定してもそれほど大きな問題になることはありません。但し、最終的に納得したい場合は、やはり吸着解離試験で確認することが唯一の方法です。

 

 【関連blog】

・#096:ABOウラ検査の反応が弱い場合に想定すること!の(はてな?)

https://www.bloodgroup-tech.work/entry/2020/11/15/062623

 

・#097:オモテB型でウラ検査の抗Aが弱い場合に考えること!の(はてな?)

https://www.bloodgroup-tech.work/entry/2020/11/20/061038

 

・#064:Bm型とB/Oキメラの鑑別には遺伝子検査が有用の(はてな?)

https://www.bloodgroup-tech.work/entry/2020/06/29/052811