血液型検査のサポートBlog

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#122:ケーススタディー(Episode:22)自己抗体に混在した同種抗体の同定

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 自己抗体を保有した血漿(血清)は、使用した全ての赤血球と陽性反応を示すため、同種抗体が混在しても簡単には判別できません。抗体価が低い(反応が弱い)自己抗体+抗体価の高い(反応が強い)同種抗体の混在であれば、その反応強度からある程度、特異性のある抗体(同種抗体)の推定は可能ですが、自己抗体の反応が3+以上になると容易ではありません。被検者が直近3ヶ月以内に輸血歴がなければ自己赤血球で自己抗体の吸着を行い、吸着上清から混在する同種抗体の検出が可能となります(自己赤血球には自己抗体のみが吸着し、同種抗体は吸着されず上清に残るため)。しかし、直近に輸血歴がある場合は、混在する同種抗体が少し前に輸血された赤血球に結合(対応抗原が陽性だった場合)するため、自己抗体の吸着とともに同種抗体も吸着除去されてしまいます。従って、吸着上清の検査を行っても、確実に同種抗体を捕まえることが出来ません。そのため、血液型が既知の数種類の赤血球を用いて別々に吸着操作を行い、吸着後上清の反応から特異性を決定します。通常、吸着にはR1R1、R2R2、rr型赤血球の3種類を使用し、3種類の赤血球の中にはJk(a+b-)とJk(a-b+)を含み、その他にDi(a-)、Fy(b-)、S-を含む組み合わせがベストです。このことで自己抗体を吸着させた吸着上清から主な血液型抗原に対する抗体を検出できます。pan-reactiveな自己抗体は3種類のいずれの赤血球でも吸着除去されます。

 

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 今回の事例では、食塩液法(室温)は陰性であることから、通常室温~低温で反応する抗M、抗P1、抗Lea、抗Leb、抗I、抗HIなどの存在は否定的と考えます。従って、IgG型の温式自己抗体が示唆されることになります。自己抗体の多くは、酵素法(ブロメリン一段法やficin二段法でも通常反応します)。LISS-IATや60分加温-IATはPEG-IATよりも検出感度が劣りますが、混在する抗体を予測するには、少し感度を下げてみるのも解決の糸口となります。LISS-IATでは若干凝集に強弱があります。この程度の強弱は自己抗体では起こり得る反応であるため、同種抗体が混在しているかどうかはわかりません。但し、被検者が妊娠や輸血歴のある患者さんであれば、当然同種抗体はあることを前提に検査を進め、最終的に否定的とするのが間違いありません。

 

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 この例では、直近に輸血歴がないことから、自己赤血球でのPEG吸着操作を行った結果、吸着上清から抗Eの特異性が確認されたパターンです。自己赤血球での吸着上清では、自己抗体は吸着され同種抗体のみが残りますので、これは同種抗体の抗Eと考えることが出来ます。一方、同種赤血球でもR1R1とrrの上清から抗Eの特異性が確認されています。もしも、自己赤血球による吸着ではなく、同種赤血球のみの吸着を行った場合は、抗Eの特異性が確認された際には、必ず被検者のRh表現型を確認する必要があります。その理由は、検出された抗Eが同種抗体なのか自己抗体なのかを判別するためです。自己抗体では、時々、Rh系の特異性を示す自己抗体が検出されます。被検者がE-型であれば同種抗体、E+型であれば自己抗体と判断するためです。自己赤血球で吸着した場合は、特異性のある自己抗体とpan-reactive(血液型特異性のない)自己抗体が吸着されるため、同種抗体の検出は可能ですが、自己抗体の特異性は知り得ないということも知っておくべきです。また、重要なことは、吸着上清とパネル赤血球との反応で陰性となったパネルで他に混在する抗体の肯定と否定を行うことは言うまでもありません。

 

【関連Blog】

・#032:自己抗体に混在した同種抗体の検出の(はてな?)

https://www.bloodgroup-tech.work/entry/2020/03/17/054638

 

・#033:自己赤血球を用いた自己抗体吸着の(はてな?)

https://www.bloodgroup-tech.work/entry/2020/03/20/082513