通常、自己抗体は自己赤血球を含む全ての赤血球を一様に凝集するため、不規則抗体同定を困難にします。自己抗体が反応する代表的な抗原は、赤血球上のBand3、Rh蛋白、GPA(グリコフォリンA)などであり、これらの蛋白は全てのヒトの赤血球上に存在するため、自己対照赤血球を含めて全て陽性となります。自己免疫性溶血性貧血(以下、AIHA:autoimmune hemolytic anemia)とは、自己抗体によって感作された赤血球が体内で破壊され極度の貧血に陥る病態です。但し、自己免疫性疾患の患者さんだけが自己抗体を保有するわけではなく、様々な病態の患者さん(高血圧、糖尿病、がん、血液疾患、腎不全、頻回輸血者等)が自己抗体を保有します。また、自己抗体の強さも千差万別です。日常検査で遭遇する多くの自己抗体は、検査上だけの問題であることが多く、自己抗体保有者の全てが溶血症状を来すということではありません。多くの例では、寒冷凝集素病などでみられる低温反応性(一部は37℃まで反応がある)のIgM性自己抗体とは異なり、主に間接抗グロブリン試験で反応するIgG性の抗体です。従って、殆どは間接抗グロブリン試験で検出されます(一部は、酵素法でも検出されます)。また、直接抗グロブリン試験(以下、DAT)も陽性となります。通常は血清中にブロードに反応する抗体が検出され、自己対照赤血球も陽性で自己抗体の存在に気が付くことが多いはずです。
今回の症例では、ブロメリン一段法及び間接抗グロブリン試験(IAT)で陽性であり、自己対照赤血球も陽性であることから自己抗体の可能性が高いと考えられます。一応、念のために直接抗グロブリン試験を実施しましたが、抗IgGが3+、多特異抗体が3+であり、DAT陽性でした。このことから、パネル赤血球と反応している抗体は自己抗体の可能性が高いことが示唆されます。また、反応性は、PEG-IATで最も強く、LISS-IAT、60分加温-IATが弱い反応を示し、自己抗体の性質を示しています。
自己抗体が存在する検体に遭遇した場合に確認すべきことは、まずは溶血症状の有無、自己抗体にマスクされた同種抗体の有無です。同種抗体が産生されるのは輸血又は妊娠のため、被検者情報の確認は必須となります。また、保有する可能性のある抗体を推定するには、被検者の主な血液型から否定が可能です。今回の例では、Rh表現型はR1R1(D+C+E-c-e+)型であるため、輸血や妊娠によって抗Eや抗cを同種抗体として保有する可能性がありますが、被検者は輸血歴のない男性であることから同種抗体を保有する可能性は低いと考えられます。
Rh及びLewis血液型以外の情報がないため、他の抗体の有無を調べるには、自己赤血球で自己血漿(血清)を吸着し、その上清とパネル赤血球との反応を観察することです(同種抗体は自己赤血球では吸着されない)。今回の例では、自己赤血球の吸着上清は陰性であり、同種抗体の混在は否定されました。念の為、表現型が既知の3種類の赤血球を用いてそれぞれ吸着操作を行いましたが、吸着上清はいずれも陰性であり、同種抗体の存在は否定されました。この結果から、血清中の抗体は、血液型特異性のない自己抗体のみということになります。従って、現時点で輸血を行う場合は、ランダムの血液を選択することになります。術後(輸血したあと)に、再度輸血が必要になる可能性がある場合は、輸血する前の血液で主な血液型を調べておくことは、次回の検査で特異性が観察された際に、自己抗体と同種抗体を鑑別する一助になります。
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・#030:pan-reactiveな自己抗体の(はてな?)
https://www.bloodgroup-tech.work/entry/2020/03/11/060742