血液型検査のサポートBlog

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#119:ケーススタディー(Episode:19)抗A1レクチンによるA型とO型の血液型キメラの分離

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 ある患者さんが整形外科領域の手術のため4単位の赤血球製剤のオーダーがありました。ABO、Rh血液型及び不規則抗体スクリーニングを実施した際、ABO血液型判定において、オモテ検査の抗Aに部分凝集(MF)(上記写真の反応)、抗Bは陰性で、ウラ検査は通常のA型の反応を呈した場合、この反応からどんなことが考えられますか?

(考えられること)①ABO亜型(A等)、②血液型キメラ(A/O)、③疾患に伴うA抗原減弱、④O型異型適合血液の輸血、⑤造血幹細胞移植・・・

 

 患者情報を確認したところ、40歳代の男性で、輸血歴、造血幹細胞移植例もなし、血液疾患等の既往歴もありませんでした。父親はA型、母親はO型で、弟はA型、姉はO型でした(皆ABO血液型は正常)。この情報から、③、④、⑤は否定的と考えられます。A等の亜型というには、抗A試薬との凝集がある程度一塊になっており、少し不自然になります。また、家族の血液型結果から、姉がO型ということは、父親は遺伝子型がA/O型のA型と推測されます。従って、父親のA遺伝子がA遺伝子等であれば、弟も遺伝子型がA/OのA型(A3)となるため、同様な反応を示すはずです。通常のA型ということは、父親がA遺伝子等を保有する可能性は低いということになります。そのため、今回の例では亜型の可能性は低くA型とO型のキメラの可能性が高いと考えて精査を進めることになります。

 血液型キメラは、一個体の中に2つの造血幹細胞が存在するため、ABOだけではなく他の血液型にも不一致を認めることがあります(勿論、全て一致の場合もある)。仮に、ABO以外の血液型に不一致を認めれば血液型キメラでほぼ確実となります。この例ではA型の凝集部とO型と考えられる非凝集部の赤血球を2つに分離し、それぞれの血液型(ABO以外)を調べるという意味です。

 A型とO型を2つの集団に分離する際には、抗A試薬を用いた場合、非凝集部のO型は準備(確保)できますが、A型は抗A試薬によって強固に凝集するため、タイピングするための浮遊液を作製することができません。こういうケース(A型又はAB型を一旦凝集させて、その後浮遊液を作製)では、抗A試薬ではなく、抗Aレクチン(ドリコスレクチン)を用いて分離し、凝集物にNアセチルガラクトサミンを加えてタイピング可能な浮遊液を作製することができます。今回は、実験的にドリコスレクチンとモノクローナル抗A試薬を用いて分離してみました。

 

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 実際には、10mLの2本の試験管にドリコスレクチンを5mL~7mL、もう一方の試験管にはモノクロ抗A試薬を同量加えて、そこに被検者赤血球沈渣を250μL~500μLずつそれぞれ加えます。ドリコスレクチン及びモノクロ抗A試薬は、どちらも通常のA型と8倍程度の抗体価になるように調製したものを使用します。また赤血球沈渣量は、50%前後のキメラであれば250μLとし、10~20%程度の混合割合であれば500μL程度とします。最終的に浮遊液を1~2mL作製することを考えると、沈渣で100μL得ることを目標とします。つまり、A:O=5:5であれば、250μLの沈渣から100μL前後得られる計算です。

 

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 最終的に、凝集部(ドリコスレクチンで凝集)と非凝集部を分離し、数回PBSで洗浄後に3%前後の浮遊液を調製します。ここで、きちんと分離されたことを確認するため、抗A、抗B、抗Aレクチンの反応を確認します。この後、ABO以外のタイピングを行います。今回の例では、凝集部(A型)はR1R1型、非凝集部(O型)は、R1R2型でした。つまり、ABO以外にも不一致を認めることから、この例はA型とO型の血液型キメラということになります。従って、輸血の対応はA型と同様の対応となります。

 

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【関連Blog】

・#003:ドリコスレクチンを用いたA/Oキメラの分離の(はてな?)↓↓↓

https://www.bloodgroup-tech.work/entry/2020/01/04/160158

 

・#098:血液型精査におけるレクチンの活用の(はてな?)↓↓↓

https://www.bloodgroup-tech.work/entry/2020/11/25/053824