血液型検査のサポートBlog

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#111:ケーススタディー(Episode:11)スライド法の凝集開始時間が決め手となる血液型キメラ(B/Oキメラ)

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 ABO血液型判定において、オモテ検査で部分凝集反応が観察される場合や背景に濁りを生じる場合には、血液型キメラ、疾患による抗原減弱、ABO亜型を疑う必要があります。但し、AB型で抗Bにのみ僅かに濁りを生じるが、オモテ・ウラ一致の場合はとくに深堀りする必要はありません。その理由は、AB型のB抗原量はそもそも通常のB型よりも抗原量が少ないため、正常範疇の減少であっても抗Bとの反応において背景に僅かな濁りを生じてきます。そのような検体を精査しても亜型の可能性は低く臨床的に問題となることが少ないことが理由です。まれにABmosと呼ばれる表現型に属する検体も検出されますが、輸血を前提とした血液型と考えた場合、時間を費やして精査を実施しても結局AB型となる確率が高いためです。従って、ここでいう部分凝集や背景の濁りとは、輸血検査をある程度経験した担当者であれば、誰もがおかしいと気がつく程度(抗A又は抗Bと反応しない集団が概ね15~20%程度以上ある場合)が一つの目安となります。

 通常実施している試験管法で部分凝集や反応が弱い検体に遭遇した場合には、まずはスライド法による反応を観察することが解決の糸口となります。その際、対照検体を必ず一緒に検査することがポイントです。A亜型やA抗原の減少が想定される場合は正常のA型を対照にすること、本質的にはAB型でA又はB抗原が弱い場合は正常のAB型を対照にすることです。スライド法を実施した際のポイントは、①凝集開始時間、②背景の濁りの2点を観察すること、そして重要なことは2分経過後に凝集を観察するだけではなく、スタートから2分経過までの凝集形成について観察することが重要です。

 今回の例では、凝集は10秒程度から始まり、次第に凝集塊は大きくなりましたが、背景に濁り(抗Bと反応しない赤血球がある)が観察されました。凝集開始時間に顕著な遅延がないことから、ここでABO亜型の可能性は否定的と考えられます。残るは抗原減弱又は血液型キメラということになりますが、被検者は20歳代であり、血液疾患でもなく、輸血歴や移植例もないことから抗原減弱の可能性は低いことになります。従って、この例は血液型キメラの可能性が高いということで、次の精査へ進むことになります。

 

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 血液型キメラの場合、フローサイトメトリー(FCM)解析では、陰性と陽性の二峰性のヒストグラムパターンが観察されるのが特徴です。また、ウラ検査では不規則性の抗A1や抗Bを保有することはありません。従って、B/Oのキメラではウラ検査は通常のB型となります。血漿中の糖転移酵素や唾液(爪)の検査では、被検者本来の血液型に従いますので、今回の場合、本来の血液型がB型であれば、血漿中のB転移酵素や唾液、爪の検査を行ってもB型判定されます(本来の血液型がO型であればB転移酵素は認められず、唾液、爪の検査でもB型物質は証明されません)。また、血液型キメラでは、ABO以外にも不一致を認める場合がありますので、B型とO型に分離した赤血球を用いてABO以外の血液型を調べることはキメラを決定する一助になります。

 また、B抗原が減弱した例においても、B/Oキメラに類似したFCMパターンが観察される場合もあります。そのため、被検者の情報(双生児の有無、疾患等の情報)は可能な限り入手する必要があります。

 

【関連Blog】

・#002:血液型キメラの(はてな?)

https://www.bloodgroup-tech.work/entry/2020/01/04/091204

 

・#089:抗B試薬との反応が弱いAB型(ABmos?)の(はてな?)

https://www.bloodgroup-tech.work/entry/2020/10/12/052752