血液型検査のサポートBlog

血液型検査(輸血検査)で生じる悩みや疑問(はてな?)をサポートする医療従事者向けのBlogです。

#106:ケーススタディー(Episode:06)Rh系抗体の特異性は単純ではない(抗Ce+抗e)

f:id:bloodgroup-tech:20201224211404p:plain

 患者は妊娠歴ある女性であり、パネル赤血球との反応においてブロメリン法及び間接抗グロブリン試験(IAT)で明瞭な反応があり、自己対照赤血球が陰性であることから同種抗体と考えるのが普通です。そして、被検者のRh表現型がR2R2型(D+C-E+c+e-)で、ブロメリン法及びIATで凝集を認めることから、Rh系(抗C?、抗e?)の存在が示唆されます。凝集に強弱があることから、その他の抗体が混在する可能性もあります。凝集の反応強度を見ると、R1R1型(D+C+E-c-e+)とは3+~4+に対し、C-でe+の赤血球とは1+~2+であることから、多くの人はここで抗C+抗eで両方の抗原(C、e)があるR1R1型では反応が強いと考えると思います。輸血上はその考えで問題ありません。しかし、もう少し検査を進めなければ単純に抗C+抗eとは言えないのがRh系抗体のちょっと難しいところです。それはさておき、まずは陰性を示すパネル赤血球から消去法で否定可能な抗体は否定することが鉄則です。抗C、抗e、抗Fyb、抗Diaは否定出来ない抗体として残りました。そこで次のステップへ検査を進めます。但し、通常市販されているパネル赤血球で一気にここまで絞り込めることは普通ありません。上記パネルは被検者の表現型から抗体を予測し、考え方をわかりやすくするために、ある程度意図的にセレクトしたパネル赤血球を並べていることをご理解下さい。他の例も同様です。

 

f:id:bloodgroup-tech:20201224211431p:plain

 抗Cと抗eが存在することは、ある程度予測がついていますので、次に実施するのは、C-,e-型赤血球で混在する抗体を否定することです。P13とP14のパネル赤血球で抗Fybと抗Diaは否定できましたので、あとはRh系の抗体の特異性を詳細に調べる作業になります。

 抗Cと抗eの単独の抗体があることを証明するには、一方が陰性の赤血球との反応を観察することです。つまり、RzR2型(D+C+E+c+e-)とrr型(D-C-E-c+e+)の反応を観察します。RzR2型の赤血球はまれな表現型のため通常のパネル赤血球には含まれていません。ブロメリン法とIATの反応はほぼ同じように反応しています。P17赤血球(rr)の反応が1+~2+認めることから、ここで抗e単独抗体が同定されます。しかし、P15及びP16のRzR2型(D+C+E+c+e-)とは陰性となります。従って、単独の抗Cは存在しないということになります。もしも抗eしか存在しないとなれば、P11及びP12赤血球のR1R1型(D+C+E-c-e+)の3+~4+は何が反応しているかということになりますが、これがRh蛋白の複合抗原に対する抗体である抗Ce(抗Rh7)の反応性です。詳細については以下の関連blogをご覧下さい。Rh系の抗体では、抗E+抗c、抗C+抗eを保有することがありますが、両方の抗原が陽性の赤血球にのみ反応する複合抗原に対する抗体が存在します。また、抗Ceと判断するのはR1R1型の反応がrr型よりも明らかに反応強度が強く(2グレード以上の違い)、加えて RzR2型(C+,e-)とは反応がないということが目安となります。但し、上述しましたが、輸血の対応は抗C+抗eと同定した対応(C-,e-の血液の選択)で何ら問題ありません。

 それから抗体価を測定する際の注意点ですが、母親抗原が陰性の場合、仮に児の抗原が陽性だとしたら必ずヘテロ接合の陽性になります(母親の陰性遺伝子と父親の陽性遺伝子を受け継ぎため)。妊婦の抗体価を測定する意義は、母親から児へ移行した抗体による影響を予測するためです。従って、通常はヘテロ赤血球を用いて抗体価は実施します。今回の場合ではR1R2型(D+C+E+c+e+)となります。抗体価測定の際の赤血球の選び方についての詳細については、下の関連blogをご覧下さい。

 

【関連blog】

・#019:Rh蛋白の複合抗原に対する抗体の(はてな?)

https://www.bloodgroup-tech.work/entry/2020/02/09/063353

 

・#070:不規則抗体の抗体価測定が必要になった際の(はてな?)

https://www.bloodgroup-tech.work/entry/2020/07/24/053720