消去法で被検者血漿(血清)とパネル赤血球との反応が陰性の抗原をクロスアウト(消去)していくと、残った抗原と反応パターンが合致しないケースに遭遇する場合があります。このような場合は、推測された抗原の性質に基づいて検査を進めることが重要です。また、被検者の血液型(表現型)が分かっていれば同種抗体保有の可能性と否定が出来ます。今回の例では、抗E、抗cを保有する可能性がありますが、P 4赤血球で陰性であることから抗Eと抗cは否定されます。また、抗Jka、抗Jkb、抗Lea、抗Lebは抗原タイピングの結果から抗体保有は否定されます。また、他の赤血球との反応から抗Fya、抗Fyb、抗N、抗S、抗s、抗Diaは否定的です。従って、抗Mの可能性が極めて高いことになりますが、特異性がはっきりしていません。
MNS血液型のM/N抗原はGPA(グリコフォリン)の末端部の5つのアミノ酸がエピトープになっています。Ficinなどの酵素で処理した際、GPAの赤血球膜の根元に近い部位で切断されるため、M/N抗原は無くなります。従って、ブロメリン一段法やficin二段法では抗Mや抗Nは陰性となります。抗Mの多くはIgM性の抗体であり、室温レベルで最も強い反応を示し(4℃にしても殆ど増強しない)、一部は37℃でも若干反応します。また、IgG性の抗Mを含む場合もありますが、通常はIAT(60分加温-IAT)よりもSal法(室温)の方が圧倒的に強い反応が出来ます。また、血清よりも血漿で反応性が強くなる特徴があります(全てではない)。それから、量的効果といって、ヘテロ接合(M+N+)よりもホモ接合(M+N-)の方が強く反応する特徴があります。このような性質がある抗Mを的確に同定するのであれば、まずはSal法の室温での反応を確認することです。そして、ブロメリン一段法などの酵素法を組み合わせることで確実となります。Sal法でも弱く反応する場合には22%ウシアルブミンを2滴加えたアルブミン法で反応が増強されます。現在、アルブミン法は殆ど使われなくなりましたが、抗Mや抗P1を同定する際には良い方法です。
室温(22℃)ではっきりしたパターンが観察され、ホモ接合とヘテロ接合赤血球で反応に差が認められます。また、ブロメリン一段法は通常37℃で実施しますが、温度が上がることで抗体活性が低下していることを否定するため、ブロメリン溶液を1滴加えて室温放置後に遠心判定することで、Sal法(22℃)との比較が出来ます。
Sal法で3+~4+の反応を示す抗体ではPEG-IATを実施した際に、持ち越し現象で弱陽性になります。但し、抗Mの場合は時々IgG性の抗Mを保有している場合もあるため、正しくIgMとIgGの鑑別を行う場合は、10mMのDTT(ジチオスレイトール)などで確認する必要があります。また、抗Mを保有した血漿(血清)では、ABO血液型判定のウラ検査で使用したウラ検査用赤血球のM抗原が陽性の場合、オモテ・ウラ不一致となります(O型以外)。ウラ検査で予測しない凝集がある場合(抗Mによる可能性が示唆された場合)は、ブロメリン溶液を1滴添加するだけで、ウラ検査が正しく判定出来ることがあります。
また、抗MはIgM性抗体であっても時々悪さ(輸血後の発熱等)をする場合がありますので、抗Mを検出した場合には少し注意が必要です。
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