抗Leaや抗Lebの抗体は、主にLe(a-b-)表現型個体から検出されます。多くは自然抗体として保有し、主に室温~37℃の比較的温度幅が広い相で反応するIgM性の抗体ですが、中には間接抗グロブリン試験のみで検出されるIgG性の抗Leaも時々検出されます。Le(a-b+)個体は、少量ながら血漿中にLea物質があるため、抗Leaを保有することはありません。ここでは、Le(a+b-)型血漿による抗Leaの凝集抑制の(はてな?)についてシェアしたいと思います。
Lewis表現型はLe(a-b+)、Le(a+b-)、Le(a-b-)の3つの表現型があり、日本人における頻度は、それぞれ約73%、17%、10%となっています。Lewis抗原は赤血球細胞では生合成されず、血漿中のLewis糖脂質が赤血球に吸着することで抗原性を有します。そのため、Le(a+b-)の血漿中にはLea物質が、Le(a-b+)の血漿中にはLeb物質が存在します。
通常Lewis抗体を保有するのは、Le(a-b-)個体であり、抗Lea、抗Leb又は両方の抗体を保有します。また、Le(a+b-)個体も抗Lebを保有することがあります。Le(a-b+)では、抗Leaを保有することはありません。Lewisの詳細については、「#004:唾液中のABH型物質の(はてな?)」も参考にご覧ください。抗Lebの殆どは、O型やA2型のLe(b+)赤血球とのみ反応する抗LebHです。また、抗Lebは臨床的意義が低いことから輸血の際に陰性血を選択する必要もありません。
Lewis抗体は、室温~37℃で反応し、反応増強剤を用いた間接抗グログリン試験(IAT)ではIgM性抗体の持ち込みと時々少量存在するIgG性の抗体によって陽性反応を呈することがあります。単一の抗Leaや抗Lebの抗体であれば、それほど抗体同定には苦慮しませんが、抗Lea+抗Lebや他の抗体と混在した際にはパネル赤血球とブロードに反応し、加えてLewis抗原量は個体差もあるため凝集に強弱が出てさらに複雑化してしまいます。通常、複数の抗体が存在する検体の抗体同定では、血液型が既知の赤血球沈渣を用いて吸着分離操作を行ったり、酵素処理赤血球などを用いて抗体を単純化したりしますが、抗Leaや抗Lebの場合には、血漿中に存在するLewis型物質で中和することも出来ます。
例えば、[SL.1]に示すように、抗Lea+抗E+抗Diaを保有した検体をパネル赤血球で同定を試みても殆どの赤血球が陽性となります。現在では臨床的意義のある抗体(IgG性抗体)検出を目的とするあまり、PEG-IATのみを実施することが多く、低温反応性の抗体(主にIgM性)もIATで弱陽性となり、さらに抗体同定を困難にしている傾向があります。殆どのパネル赤血球と陽性を示した際には、反応している抗体全てがIgG性抗体であることを一旦確認することは抗体同定をスムーズにします。このケースではSal法(室温)での反応を観察することで、低温反応性の抗体が存在することが明らかとなり、それが抗Leaや抗Lebの可能性が示唆されれば、IATでの反応の解釈にも繋がります。Sal①、PEG①は検体そのままの反応です。この検体にLe(a+b-)個体の血漿(Lea型物質)を等量混ぜて一定時間静置し、その後、パネル赤血球を加えて反応を観察したものがSal②、PEG②となります。Le(a+b-)血漿を加えることによって抗Leaは中和され、PEG-IATでは抗Eと抗Diaの特異性が明瞭になりました。
今回は抗Leaを例にしましたが、抗Lebの場合はLe(a-b+)血漿で同様に抗Lebを中和することが可能です。血液型抗原の中で血漿中にその型物質がある程度存在し、血漿で抗体を中和出来るのは、抗Lea、抗Lebの他に抗Ch、抗Rgも同様に中和することが出来ます。抗Ch/Rgについては、「#043:抗Ch、抗Rgの同定方法の(はてな?)」を参考にご覧ください。複数の抗体が存在した検体の抗体同定をスムーズに進めるには、吸着操作や酵素・化学処理赤血球との反応に加えて、型物質による中和も一つの手段として知っておくと抗体同定をよりスムーズに進めることが出来ます。